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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう

《sideS》



翔「智くん? どうかした?」

智「えっ」


シャワーを済ませて出てくると、智くんは部屋の真ん中で突っ立っていた。


智「あ、や、ビールでも呑むかなと思って」

翔「眠いんじゃないの?」


さっきはあんなに目がトロンとしてたのに。
今の智くんは目をぱちくりとして何故かキョロキョロと落ち着かない。


智「いや、眠気は」

翔「そう? だったら智くんもシャワーしてきなよ。なんだかんだでそっちも疲れてるでしょ?」

智「え?」

翔「それにほら、車で…」

智「あ…」

翔「ね? サッパリして寝よう?」

智「う、うん」


“スイッチ”が入ったと思った智くんは、なんだか急にあっさりしたから。
だから俺も平常心を保った。
そんな事を言ってもやっぱり眠いんだろうと。
風呂から出たら結局すぐ寝ちゃうんだろうと。


智「あ、さ、先寝てていいから」

翔「まだ眠くないよ(笑)」

智「そ、か」


なのに俺があっさりすると急に挙動不審だし。
何を動揺する事があるんだ。
その気になって泣きを見たのは俺の方なんだが。


翔「眠くなったら寝るから。気にしないで入って」

智「ん」


少し恥ずかしそうにくるりと背を向ける。
それは猫背で。
ぽてぽてと歩いてチラリと振り返る。


翔「早く(笑)」

智「はい」


名残惜しそうに風呂へ入って行く姿はまるで、素っ気なく扱われた猫のようだ。


翔「はぁ、わっかんねーな…」


その後ろ姿を見送り、ソファーにドサッと座る。
静かな部屋に軋んだ音がせつなく聞こえた。

ベッドのサイドテーブルの引き出しに仕舞ってある小さな紙袋。
それは新たに増えたもの。
智くんを元に戻す為、俺達の幸せを願う為に相葉雅紀が用意してくれた愛が詰まった小袋。


翔「今日は出番無さそうだな…」


その引き出しを眺めながら、俺は静かに目を閉じた。





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