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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう




翔「ん…」


あれ、寝ちゃってたか。
今は何時だ? 智くんは?


翔「もう1時間…」


なんだかんだで疲れてたのか、俺はすっかり寝入っていた。
辺りを見回しても智くんの姿は無いし、ベッドで休んでいるのかと寝室に向かう。


翔「あれ…」


だけど、そこに智くんは居ないんだ。
ひょっとしてアレか。
勝手に帰っちゃったってあのパターンか。


翔「ったく…」


声くらい掛けて行けよと心で悪態をついていると、風呂場からカタンと小さな音がした。


翔「まさかまだ風呂…?」


いやいくらなんでも遅すぎるだろう。
長風呂をするタイプでも無いし。
そんな事と同時に嫌な予感が過ぎる。


翔「眠そうだったし溺れてるんじゃ」


一瞬で血の気が引いた。


ガチャッ


翔「智くんっ!? いるの!?」


まるでワープでもしたんじゃないかと思う程の速さで俺は風呂のドアを開けた。


翔「さっ、智くん…っ!」


そこにはしっかりと湯を張った浴槽に智くんが居たんだ。
目を閉じて、顎は湯に浸かり、今にもブクブクと溺れそうな様子で。


翔「智くん! しっかりして!」


沈みそうな体を引き上げガクガクと揺さぶった。


智「ん…?」


すると、静かに目を開け俺を確認する。


翔「溺れる所だったよ!? こんなとこで寝ちゃ駄目だよ!」

智「あ、あぁ ごめん」

翔「ごめんじゃないよ本当にも~…」


バスタブから引き摺り出そうと抱えた身体は重く、異常なまでの熱を持っていて。
その事に俺が気付くと、智くんは罰の悪そうな顔をした。


智「ちょっと考え事してたらのぼせたみたい」

翔「ちょっとって…」


相当だろこれ。


智「なんかさ、引っ込まなくて」


と言う智くんの頭にはペロンと倒れた猫耳が。


翔「いつ出たの?」

智「風呂入ってすぐ」

翔「またどうして…」


尻尾だって湯の中でユラユラと揺れているし。


智「や、ちょっと…ね…」


原因は何だったのかと聞こうとすると、智くんは悲しそうな顔をするんだ。
俯いて、尻尾を見つめて。


智「…なんで、出ちゃうのかな…」


その声があまりに小さくて可哀想だったから。


翔「とりあえず出よう? 体、冷やさないと」


だから無理に聞くのはやめた。

その声は、俺の胸をぎゅっと掴むから。






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