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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう




翔「着込まない方がいいだろうから…、バスローブでいい?」

智「うん」


身体の怠そうな智くんは、ソファーに座りながらバスローブを羽織る。
そこに水を差し出すと、“ありがとう”と言って小さな口にグラスを運んだ。


翔「怠そうだね、横になる?」

智「うん」


口数が少ないのはいつもの事だけど、さっき風呂場で聞いた声が忘れられない。
悲しそうな、小さな声。

俺の後をついて歩く智くんはまだ俯いていて。
辿り着いたベッドにも、俺を見る事なく転がった。


智「…ごめんね? ありがと」


漸く、チラリと視線を寄越した。


翔「いいよそんなの」


何か言いたそうな、だけど言えなさそうな。
そんな情けない顔をしている。


智「ごめん…」

翔「だからいいって…(笑)」


俺は笑いながら智くんの顔を見た。
だけど智くんは笑わなくて。
それどころか少し目を潤ませているようにも見えた。


智「そうじゃなくて、これさ…」

翔「あぁ、耳?」


なんだ今更そんな事。
出っぱなしなんて今に始まった事でもないのに。


智「治そうと頑張ってくれてるのに俺…」


確かに未だ治らない事に疑問はあるが、でもそんなの智くんが悪い訳じゃない。


翔「そんな事気にしてたの?」

智「だってさ…」


のぼせるまで何をそんなに考え込んでいたのか。


智「俺、幸せなんだよ」

翔「うん?」

智「翔くんが俺の事、想ってくれてるって実感してるし」

翔「うん」

智「こうやって一緒にいれるし、俺、本当に幸せなんだよ…?」

翔「うん、わかってるよ(笑)」


今回もそうだけど、たまにこの人の行動が読めない時があって。
その度俺はほんの少しの不安を感じる。
だけどそれは全て俺の思い過ごしで、この人だって俺を必要としてくれている。


翔「同じように俺を想ってくれてるの、知ってるよ?」


だからこそのこの関係なのに。
何故そんな不安気な顔をするのか。


智「同じじゃない…」

翔「え?」

智「同じじゃないんだよ」


重そうに口を開いたその言葉。


智「だから、治らないんだ」


再び俺の血の気が引いた。


智「ごめん…」


暗闇に、小さく開く唇が浮かび上がる。


その唇はわずかに濡れ、小刻みに震えていたんだ。






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