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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう




何を謝った?

今のは、何に対しての謝罪なんだ。


翔「同じじゃないって、どういう事…?」


血の気の引いた俺の身体に、急に激しくなる鼓動。
まさか今更、俺の事好きじゃないなんて言うんじゃないだろうな。


翔「ねえ、智くん」


濡れた唇と比例して潤んだその目。
それを揺らして詰め寄る俺を見る。


翔「…なに? ひょっとして、俺の事好きじゃなかったとか?」


頭を過ぎった不安を口にすると声が震えた。


智「違、そうじゃなくて…」


だったらなんなんだよ。
訳がわからない。なんなら泣きそうだ。


智「翔くんの事は好きだよ」


事“は”? “は”ってなんだよ。


智「なんでそんな顔するの…」


仕方ないだろ。悪い予感しかしないんだから。


智「翔くんのせいじゃない」


なにが。


智「俺が、悪いんだ」


それをどう捉えろと。


翔「…浮気でもしたとか?」

智「しないよそんなの」


なんの謝罪なのかハッキリしてくれ。


智「…俺ね? 寂しくないんだよ」

翔「え?」

智「翔くんって俺の事好きなんだなぁって思ったらさ、嬉しくて」

翔「うん…」

智「だから寂しくないんだよ。会いたいとは思うけど」

翔「俺も…」


だから今日は凄く嬉しくて。
その話でいけば智くんだってその筈なのに。


智「だからさ、自信あるんだよね」

翔「なんの…?」

智「翔くんに愛されてるって、自信」


俺の気持ちは分かっているのか。


智「だからさ、もぅ、十分幸せなんだよね…」


なにその運び。
だからお前はもう要らないとでも?


智「なのに…」


ほらきた。


智「なのにさ、なんで」


なのに治らないから、お前じゃなかったみたいと?


智「なんで、出ちゃうのかな…」


俺の予感は当たってしまうのか。


智「自分が情けなくて」


水分の多い瞳が更に潤んで。


智「こんなの、翔くんに申し訳ないよ…」


今にも涙が零れそうだ。


智「俺が悪いんだよ」


涙を堪える智くんは、張り詰めた息を吐いて。


智「バランスが取れない」


濡れて光る唇を震わせた。


智「ごめんね…?」


ごめんねと謝る智くんは小さな声で囁いた。

声に出すつもりは無かったのか、それはそれは消え入りそうな声で。


“好き過ぎるんだ”と。



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