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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう




智「ふ…」


薄く目を開いて俺を見ていた智くんは、いつの間にか瞳を閉じていた。

その眉頭がほんの少し歪む。


智「ほら、治んないでしょ…」


眉頭を歪めた智くんは両手で俺の肩を掴み、ゆっくり俺を引き離した。


智「…治るどころか、逆に酷くなってる」


情けなく眉を下げ、申し訳なさそうに俺を見る智くんは頬がほんのり紅い。


翔「この間はキスで治ったのに…?」

智「それは、仕事の前だったから」

翔「どういう事?」

智「あ、出そうだなって思って。んで、翔くんのキスで落ち着かせた」

翔「じゃあ、今落ち着かないのはどうして?」

智「それは…」


二人きりだし。
何もわざわざ落ち着かせる必要なんて無いんだ。


翔「逆に酷くなるってのは、どういう事?」


それは、キスによって疼いたからだろ?


智「だから…、その…」


欲してるからだ。


翔「俺が、欲しいんでしょ?」


開いた瞳孔が物語っているじゃないか。


翔「もっと、俺に触れてほしいんでしょ?」


ドクンと高鳴る心臓は正直だ。


翔「もっと、愛して欲しいからじゃないの…?」


見透かされた智くんは戸惑うんだ。

瞳孔を大きく開かせ、まるで息でも止まってしまったかのように微動だにしない。

だけどそれとは反比例して心臓はバクバクと落ち着かないし。


翔「当たった?」


囁くように言ってやると、ピクリと耳が動いた。


智「だ、から」


知ってるんだ。俺の声が好きな事。


智「俺が贅沢なんだよ」


たまに出す貴方の低い声にゾクゾクするけど、智くんも俺の声に疼いてる事知ってるんだ。


智「もう、十分愛して貰ってるんだから…」


そんな事を言っても唇は震えてるし。

一生懸命絞り出すその声だって微かに震えている。


翔「贅沢なんかじゃないよ?」

智「え?」

翔「当たり前の事だよ」


急に弱い小動物のようになるんだ。


翔「俺だって、愛し足りなくてもどかしいんだ…」


ゆらゆらと揺れる瞳にパクパクと開く小さな唇。


スイッチなんて貴方の前に出ればいつでも入るけど。

だけどこの姿だけは駄目なんだ。



止めろと言われても止められる気なんてしやしないんだから。





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