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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう

《sideS》



翔「大丈夫? ゆっくりね」

智「ん」


やはり無理をさせすぎたのかシャワーに誘っても智くんは起き上がれなかった。
“腰が砕けたみたい”と笑って俺に手を伸ばしたんだ。


翔「…はい、到着」

智「んふ、ありがと」


そんな智くんをシャワールームにお姫様抱っこで運び、俺に抱きつかせたまま身体を洗ってやった。
お風呂にもちゃぷんと浸かり、“気持ちいい”と微笑む智くんをしっかりと温めてやったんだ。


翔「気を付けて、そっとだよ」


ベッドに到着してからも背を支えてやりゆっくりと身体を横たわらせる。
そんな智くんは、俺を見てクスッと笑った。


智「大丈夫だよ。あったまったら随分楽になった」

翔「そう?」

智「ん。だからそんなに心配しな… あれ?」


俺を見て笑っていた智くんが視線を逸らした。


翔「どうかした?」

智「ない」

翔「へ? 猫耳はさっき無くなったでしょ?」

智「じゃなくて。鏡」


一点を見つめて指をさした。
その方向に視線をやると、この部屋になかなか馴染めないでいたアンティークな鏡が消えていたんだ。


翔「ほんとだ…」

智「引っ掛けてた布は落ちてるのに鏡がどこにもない」

翔「外れたんじゃなくて“消えた”って事か…」


未だ鏡の掛かっていたその場所から目を離せないでいる智くんは少し拍子抜けしたのかもしれない。
なんとかして外してやろうとあんなに躍起になっていたのに跡形もなく消えようとは。


翔「…なんか、少し寂しいかも(笑)」

智「寂しい?」

翔「う~ん、なんかもう、あのお爺さんに会えない気がしてね」

智「あぁ…」


拍子抜けしたのは何も智くんだけではなくて。
あまりに呆気なかったもんだから、何故か俺も壁から目を離せなくなっていて。


智「うん、そうだね」


智くんの声も、ほんの少し寂しそうに聞こえた。


智「文句言ってやろうと思ってたのに」

翔「文句?」

智「だってめっちゃ大変だったじゃん。もう少しで猫になるところだったんだから」

翔「確かに(笑)」


壁を睨み付ける智くんは少しほっぺを膨らませてた。


智「せっこいよな…」


その姿はやはり、どこか寂しげでもあったんだ。






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