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神様の願い事

第12章 “好き”の向こう

《side爺》



翔『デカっ』


今度は若い俺の家に来た。
その壁に立て掛けてある鏡を見て、翔くんは少し驚いた。

翔『貴方よくこんなデカイの出せたね』

智『凄いでしょ』

翔『凄いってか、ジャマだろこれ(笑)』

智『確かに迷惑そうだったよね』

翔『ははっ』


俺が一番最初に唱えた呪文。それは大きな鏡を作った。


翔『俺んちのと全然サイズ違うじゃん』

智『なんかおっきいの出ちゃって』

翔『唱える時にチカラ入れすぎたんじゃ?』

智『ん。大きかったんだろうね』

翔『大きい?』


こんなの子供騙しだ、どうせインチキなんだし何にもならないだろうなんて思ってた。
そう思いながらも諦めきれずに。


智『翔くんへの“愛”』

翔『え?』

智『ふふっ、それがね、強すぎたんだよきっと』


そして念を込めた呪文は抱えきれない程の大きな鏡を作り出したんだ。


翔『“愛”って…(笑)』


ちょっと恥ずかしそうにする翔くんは照れ笑いをしてる。
きっとニヤニヤしてるに違いない。


智『だってさ、寂しくなっちゃって』

翔『ん? 死んじゃったから?』

智『んー… ていうか、翔くんに会えなくなっちゃうのが』


別に寿命だし、翔くん含めメンバーに看取られながら俺は幸せの内に目を閉じたんだ。
だからそれほど寂しくはなかった。
逆に嬉しかった。幸せだったなぁって、楽しかったなぁなんて思いながら天に昇ろうとしたんだ。


智『だから正確に言うと俺本当にオバケなんだよ?』

翔『へ?』

智『成仏してないんだよ。戻ってきちゃった(笑)』


だけど昇ってる途中で妙に後ろ髪をひかれて。
くるりと下界を見下ろすと、翔くんが泣いてたんだ。


智『なんか、行けなかったんだよね…』


死にかけの俺に笑いながら“勿体無い時間を過ごしたね”なんて話してたのに。
魂の抜けた俺の亡骸にしがみついて泣きじゃくってた。


智『浮遊霊の部類なのかな』


そうして戻っても翔くんには俺が見えてなくて。
頭を撫でてやっても背を擦ってやっても泣き止まなかった。

そうこうしてるうちになんだかとてつもない寂しさが襲ってきて。


泣きじゃくる翔くんの背を擦りながら、俺も一緒に泣いたんだ。






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