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神様の願い事

第2章 秘密



智「ふ...」


ピクッと智くんの瞼が動いた。


翔「あ...」


ソファーに凭れてあどけない寝顔を晒すこの人に触れてしまったんだ。
俺の唇を、智くんの唇にそっと合わせて。


翔「何やってんだ俺...」


ピクッと動いたその瞼にハッとした。
我に返って、俺は洗面所に駆け込んだ。


翔「またやっちゃったじゃねえか…」


自分の欲に駆られて行動を制御出来ない。
こんなに情けないヤツだったのかと自分に呆れた。


翔「...智くんには、この人が居るってのに」


バシャバシャと顔を洗ってふと前を見ると、この間と同じように二つの歯ブラシが仲良く並んでる。

智くんにはそういう人が居るんだと、再び思い知らされた。


翔「帰ろ…」


もやもやして胸がきゅっとする。
リビングに戻ると、未だそのままの姿勢であどけない顔を晒してる。
それを見たら今度は胸がズキズキと傷んで。


翔「...智くん、そんなところで寝たら風邪ひくよ」

智「すぅ...」


肩をトントンと叩いても起きなくて。
凭れたままだし、かえって疲れそうな姿勢をしている。


翔「ほら、捕まって...」

智「んん...」


抱き抱えると、智くんは俺の痛む胸をきゅっと掴んだ。
目も開けずに夢心地のままで、何かに縋るように俺を掴んだ。


翔「じゃあ、帰るよ」


ベッドに降ろしてもスヤスヤと気持ちよさそうに寝てる。
身体を離しても俺を掴んだ手が離れなくて、それが嬉しかったけど、なのに苦しくて。

だから俺は静かに智くんの手を解いた。


翔「...あの歯ブラシ、誰の...」


そんな事聞く権利も無いのに。

夢の中にいる智くんに聞いたって、答えてくれる筈も無いのに。


翔「ごめん、忘れて」


だから聞くのを辞めた。


智くんの寝顔を見て深い溜息を吐き、しっかり布団を被せて。


玄関でまた溜息を吐きながら靴を履き、そのまま静かに智くんのマンションを後にした。


翔「はぁ...」


溜息なんて治まりゃしない。


この苦しさ、どうやったら無くなるんだ。







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