
神様の願い事
第2章 秘密
「いて」
家に着いたら神様を床に降ろしてやった。
ふらふらと歩く神様は、何かを踏んづけて痛いと言う。
翔「何か踏んだ?」
「ああ~もぅ。俺の肉球が...」
ぷにぷにと可愛いその肉球を見ると、少し血が出てた。
「こんなとこにハサミ置いといたら危ないでしょ」
記事の切り抜きをしたままほったらかしになってたハサミだった。
それを神様は踏んだんだ。
翔「ごめんね? 手、出して」
血の出た肉球を見つめる神様は愛らしい。
その肉球を差し出し、俺を見上げる。
翔「はい、出来た」
「絆創膏?」
翔「一応ね」
小さな肉球には似つかわしくない人間用の絆創膏。
ちんまりと座って肉球をペロペロと舐めていたから、その姿が愛らしくて何かしてやらずにはいられなかったんだ。
「ふふ、ありがと」
翔「怪我させちゃったのは俺だし」
ありがとうと礼を言う神様は、俺の膝にそろりと乗ってきた。
おいでとも言ってないのに、さも自分の定位置のように自然に乗ってくる。
「で?」
翔「ん?」
「話、何かあったんでしょ?」
翔「あ~...」
なんだか苦しくて、胸の内を聞いて貰いたかったんだ。
いや、聞いて欲しかったと言うよりは癒されたかった、それだけなんだけど。
翔「胸が苦しいんだよね」
「どうして?」
翔「...失恋、したみたいで」
ソファーに身体を預け、俺の膝に乗る神様を見た。
神様は身体をまるめて頭だけをコッチに向け、俺を見上げてる。
「失恋?」
翔「そ、この間言ってたでしょ。その人に」
「やっぱ恋だったんだ?」
翔「みたいだね…」
思わず溜息が出た。
すると神様は心配そうな顔をする。
「...溜息は幸せが逃げちゃうよ?」
翔「出すなって方が無理だよ。好きなんだって気付いたばっかなのに、あっさり失恋だよ(笑)」
「告白したの?」
翔「いや」
「じゃあなんで」
翔「恋人がいるみたいなんだ」
あの歯ブラシの意味するところはそう言う事だろう。
翔「あの人には、大事な人がいるんだよ」
心配そうに俺を覗く神様を見て、ふふっと笑みを零した。
「情けない顔してんな…」
すると神様は俺の胸に手をついて伸びをすると、俺の頬をペロッと舐めるんだ。
まるで、俺を慰めているかのように。
