
神様の願い事
第2章 秘密
「恋人がいるって、本人に言われたの?」
翔「いや」
「じゃあまだ分かんないじゃん」
翔「わかるよ。歯ブラシあったし」
「歯ブラシ?」
翔「その人の家にさ、2本あったんだよね。独り暮らしなら2本もいらないでしょ?」
「その人の家に、行ったんだ...?」
翔「うん...」
俺を励まそうと、まだ決まった訳じゃないと神様は言ってくるけど、俺は知ってるんだ。
あの家に歯ブラシが2本あったのを。
「でも、恋人がいるのに他の男を家に入れるかなぁ」
翔「だって友達みたいなモンだから」
「へ?」
翔「あっちは特に意識してないと思うよ? もう長い付き合いだしね」
「そうなんだ。...へぇ、そんな人いるんだね…」
翔「なにそれ(笑) 俺にだっているよそれくらい」
「ふふ、だよね」
優しく笑う神様は、少し寂しそうな顔をしてる。
やっぱなんだかんだで神様だからだろうか、俺の心情を察してくれてるのかもしれない。
翔「はぁ...、誰なんだろうな。あの歯ブラシ...」
「うん...」
翔「ふふ、神様までそんな顔して」
「え? あ、ふふ、移っちゃったみたい」
また少し笑ったけど、やっぱりしんみりとして。
「気になる...?」
翔「まぁ、そりゃあね。あの人の心を射止めた人って、どんな人なんだろうなって...」
「君をそんなふうに思わせるなんて、その人はきっと素敵な人なんだね」
翔「うん。凄く素敵で、魅力のある人だよ...」
「そっか...」
俺の膝でしんみりしてると思ったら、急に床にシュタッと降りて。
「よし、呑もう」
翔「え?」
「こんな時は呑んでゆっくり寝よう。明日休みでしょ?」
翔「俺の休みよく分かったね」
「んふ、だって神様だよ?」
翔「そっか(笑)」
小さな身体で俺を励ますんだ。
それがいじらしくて嬉しくて、俺はとっておきの酒を振舞った。
「あ、これこれ。んまいんだよ♪」
翔「でしょ?」
俺の掌から酒を呑む神様はとても可愛いくて。
その姿を見ているだけで癒される。
それでもやっぱりまだ胸はきゅっと痛むから
だから
今日は神様を酔い潰して、一緒に寝てもらおうかな。
