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神様の願い事

第2章 秘密



酒の味なんてしやしない。


他にも数人、後輩やら先輩やらが居た。
だから俺はそこに挟まってくだらない話をしながら笑ってるんだ。

だけどその目の端にはあの2人を捉えて。


松「ん? どうしたコレ」


カウンターの隅に2人で座り、仲良く肩を並べながら酒を呑んでる。
そんな松岡くんは、智くんの手を取り、顔を覗いていた。


松「こんなの何で切ったんだ?」

智「ん~...わかんない。気付いたら切れてた(笑)」

松「おま...、ボケッとしてるからだろ」

智「んふふ」


どうやら掌に傷があるようだった。
昨日はそんなの気付かなかったのに。家で怪我したんだろうか。


「...なんですよ。って、櫻井くん? 聞いてます?」

翔「へ? あ、ああ。聞いてるよ」


聞いてる訳が無い。
心ここに在らずとはまさにこの事だ。

視界の隅に映り込むあの2人に、俺の意識は持って行かれてる。


「でも、本当大野くんって可愛いですよね。年上とは思えないっす(笑)」

翔「へ?」

「だってほら。松岡くんが気に入るのも分かる気がしますもん」


ほら、と目で合図をする後輩に促されて、しっかりと俺の目で2人を捉える。

するとそこには、酔っ払ってふにゃふにゃになったあの人が映った。


智「ね、これいい?」

松「ああ、俺は構わねえよ」

智「...ふふっ」

松「なんだ?」

智「“構わねえよ”って」

松「ん?」

智「めちゃくちゃ似合うよね。その台詞」

松「はぁ?(笑)」

智「俺、松にぃのそれが聞きたくて変な質問ばっかしてるんだよ?」

松「なんだそれ(笑)」


ふにゃふにゃと笑う智くんを、松岡くんは愛でる。

松岡くんのその笑顔からは、可愛いくて堪らないんだという感情が滲み出ていた。



そっか。

そういう事なのかな。



俺の出る幕なんて、無いんだ。







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