神様の願い事
第3章 変化
「いい鏡なのに...」
このしょんぼりする姿、どこで見たんだろう。
「本当にいらんかの?」
会った事は無いと思うんだけど。
翔「や、もうあるし。ってかそんなデカいの持って帰れな...」
「ああ、これじゃ無くて。こっちじゃ」
おじいさんが差し出したのは、両手から少しはみ出すくらいの壁掛け鏡だった。
「これを家に掛けておけば、いい事があるかもしれんぞ?」
幸運が訪れますよ、なんて言ってクソ高いツボを売り付けてる輩は昔からいるが、最近は鏡まで売るようになったのか。
翔「いえ、俺は」
「幸運が訪れるぞ?」
インチキくさ。
「信じるものは救われると言うのに...」
翔「はい?」
「お前さんの欲しいものが手に入るかもしれんよ?」
翔「欲しい物?」
「そうじゃ。欲しくて欲しくて堪らないもの。お前さんには無いのかの...?」
俺の欲しいもの。
そんなの答えは決まってる。
「ふふ...」
智くんだ。
あの人の、心が欲しい。
「よし。今なら大サービスじゃっ。なんとこの鏡に...」
翔「け、結構ですっ! それではっ!」
今度は神様じゃなく、俺が猛ダッシュだ。
あのまま行けば、ずっとヘンテコリンな話を聞かなきゃいけない。
んで知らず知らずのうちにクソ高い鏡を買わされてるんだ。
逃げて正解だ。
翔「はぁ、疲れた...」
なんだったんだあのじいさん。
久々に結構な距離を全力で走ってしまった。
俺の走る後ろから、やっぱ足速いなぁなんて、関心する声が聞こえたけど。
翔「...どっかで会ってるのかな」
あの懐かしむような口調が気になった。
いや、気になる所は沢山あるんだけど。
翔「TV関係者...? な訳ないか」
夜中に鏡を売るじいさん。
やっぱり知らね。
翔「つか、結局何も話せなかったな」
それこそ3分という訳じゃ無いけど、ウルトラマンのように時間切れで神様は帰ってしまった。
悩み相談ってのもおかしな話なんだけど。
やっぱりこんな事は神様にしか話せなくて。
また、会いに行かなきゃ。