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逢いたいから~恋とも呼べない恋の話~

第5章 再会

 まあ、あれだけ失恋の痛手に沈んでいたのに、別れて一週間で新しい恋に夢中になれるという亜貴の心境も萌には信じられないが、昔から、従姉はそうだった。
 何があっても、泣くだけ泣いた後は、あっけらかんとしていた。きっと、今回の素敵なハッピーエンドは、亜貴が流してきた涙に見合うだけの幸せを神さまが亜貴のために用意してくれたのだ。
―幸せになってね、亜貴ちゃん。
 萌の心の声が届いたのか、はるか彼方のひな壇にいる亜貴がこちらを見て、かすかに微笑んだような気がした。
 萌の中で、昨日の夜、亜貴と独身最後の夜を一緒に過ごしたときのことが甦る。その日、萌は美味しいと評判のケーキ工房ドリームメーカーのケーキを持って亜貴の家を訪ねた。
 亜貴は結婚を決めてからすぐにマンションを引き払い、実家に戻って残り少ない独身時代を両親と過ごしていた。亜貴は萌が持参したショートケーキをつつきながら、何を思ったか、唐突にこんなことを言ったのだ。
―そう言えば、彼って、お父さんに似てるのよ。
 少し考え込んだような表情の彼女を見て、萌は何と言えば良いか判らなかった。とりあえず次の言葉を待っていても、亜貴は何も喋らない。沈黙の意を計りかねていると、彼女はクスリと笑んだ。
―不思議でしょ。私って、あんなにお父さんのような男(ひと)だけはイヤだと思ってたのに。何しろ、うちのお父さんときたら、会社から帰ってきたら、スーツを脱ぎ散らかし、いつも母に会社の愚痴を零してばかり、その癖、家事は何もしようとしないし、洗濯物一つ取り込まない。お母さんが病気のときだって、手伝わないくらいの徹底的な亭主関白なのよ。
―そういえば、亜貴ちゃんってば、昔から言ってたよね。結婚するなら、叔父さんみたいな人とは絶対したくないってさ。
 萌が笑いながら言うと、亜貴もまた笑った。
―結局、似た人を選んじゃった。
―でも、亜貴ちゃんの彼、写真で見た限りではマメそうに見えるけど?
―今風なのは見かけだけよ。中身は昭和の頑固親父って感じかな。
―なに、それ。うちの旦那でも、そこまではいかないよ。
 萌がまた笑うと、亜貴はふいに遠くを見るような瞳になった。

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