teardrop
第1章 1滴
昨夜、仕事から酔って帰ってきた父の機嫌は悪かった。
透花に当たり散らすように父は悪態をついて絡む。
透花が聞こえないフリをしていたら父が怒鳴り声をあげて突然透花に手をあげた。
叩かれた頬が痛みと共に熱くなった。
透花に手をあげて少しは鬱憤が晴れたのか、父はだらしない姿でソファに横たわるとそのまま眠った。
こんな事は昔からよくある。
小さい時は痛さや怖さでよく泣いた。
けれど、泣けば泣くほど父は「うるさい」と言って更に逆上した。
余計な怒りを買った透花が泣き止むまで叱咤や暴力は続く。
だから透花はいつしか、そんな時は感情を出さぬよう心を閉じるようになった。
痛くても怖くても、ただ我慢する事で自分の身を守る事を学んだ。
それでも思い出しては後から一人でこっそり泣いたりしてたが、小学生になって学校へ通うようになると家庭以外の世界を知った。
学校へ行けば家での嫌な事も一時的に忘れて、安息の時間を得られる。
幼き頃から日々の慣れもあり、そうやって透花なりにも当たり前のように何とかやってきた。
暫く鏡を見つめたまま、昨夜の事をぼんやり思い出していた透花は急にハッとする。
「ヤバい!遅刻だっ!」
洗面所から慌てて自分の部屋に戻ると、急いで制服に着替えて家を出た。