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teardrop

第5章 5滴

真夜中に目を覚ます。

洗面所へ行き、水を少し流して指先を濡らし、感触を確かめる。

鏡にうつる自分の顔を暫く眺め、不意に囁く。

「私はだ〜れだ?」

フフフっと微笑む。

「ねぇ、透花…気付いてないと思うけど、アナタの苦しみは私の存在をどんどん大きくしていくわ」

優しく妖しく喋りながら、愛しそうに鏡にうつる自分の顔を濡れた指先で撫でる。

「もう少しね。透花が恐れる事や傷付く世界は私が変えてあげる…私の為にも…ね」

不敵な笑みを浮かべながら唱いだす。

「うしろのしょうめん、だぁれ?…それは私…いつも一緒にいる…だから私も透花も独りじゃないの…」

ふっと山荷葉の花を思い描くと「小さな透明な花、大きな蓮の葉…蓮…葉…」と呟く。

「私は…蓮葉(ハスハ)…フフッ…良い名前でしょ」

顔から笑みが消えていく。

ゆらりと揺れる体。

急にガクンッと力が抜ける。


咄嗟にパッと目を開いた透花は洗面所に掴まって体勢を直した。

そして、息を潜めて目だけで辺りを見まわす。

一瞬、鏡にうつる自分が笑って見える。

しかし、気のせいと気付いて透花は胸を撫で下ろした。

ホッとしながらも「私は…何で洗面所なんか…いつの間に?…寝ぼけてたの?」と言うと少しの間、考えた。

考えても、何もわからないまま部屋へ戻ろうとする。

時計を見ると深夜2時をまわっていた。

部屋に戻ると何だか少し落ち着かない気分に窓を開け、外の空気を吸い込んだ。

空を見上げると、綺麗な月。

不思議と頭の中に響く、童謡のかごめかごめ。

「うしろの正面だぁ〜れ…」

透花は無意識に口ずさんで歌っていた。

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