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誰も愛せない

第1章 予感…

「ガチャッ」
「いらっしゃいませ!」
マスターは祐一を優しく迎え入れた…

「どうも!」
そう言いながら、カウンターの一番奥に座った。


ここは祐一の行きつけのバーで
祐一が唯一女性を連れて来た事のない
祐一自身が大切にしている場所だ。


「マスター!ビール頂戴!」

「んっ」
そう言うとマスターはビアグラスに
ビールを注ぐと祐一に前に静かに置いた。

「ありがとうっ」
そう言うとビールを一口飲んだ…

「はぁ〜」
祐一はため息混じりに言った…

「お前見てると、こっちまで疲れるよ」
マスターは心配するように言う…

祐一はビールを飲みながら、一瞬苦笑い
をした…
疲れるかぁ…考えた事なかったなぁ…
でも………。


二人は会話をする訳でも無いが
会話をしなくても分かり合えている夫婦?
っと言うより親子と言っても良い位だろう…。


マスターと祐一の出会いは15年前…。
祐一がバイトの募集を見て来たのがきっかけだった。
祐一は大人びていたが高校1年で
大学1年と言うには少し無理がある嘘をついて
面接に来た祐一を心良く雇ってくれた。

当時、マスターは息子を交通事故で
亡くした半年ほどが過ぎた頃で
祐一と亡くなった息子を
重ねていたからだったのか…
その事は今だにマスターは口にした事は無い。

祐一も自身の事は
人暮らしをしているっという
事以外は話してはいなかった。

祐一が自身が高校生である事を
マスターに打ち明けたのは
一年が過ぎた頃だった。
マスターはそれを聞いても、怒るでもなく
祐一にこんな事を話した…

「お前が大学生だろうが、高校生だろが
俺には大した問題じゃない!
お前は俺が望む以上の仕事をしてくれている。
だから俺には問題じゃない!」

マスターの言葉に祐一はただ涙を流していた。

マスターは何かを察したように
祐一の頭を強く撫でながら…
「良く言ってくれたな!大丈夫だ!
俺はお前の味方だ!」

心を閉ざしていた祐一がマスターに
心を開いた瞬間だった。






















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