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なぜ?

第6章 交差

リビングに通され、ソファに座った。
シンプルなリビングだ。

デカいテレビとグランドピアノ。壁には猫たちが遊べるようなキャットウォークが作ってあった。

飾りといえば、1枚の大きな馬の絵だけ。
シンプルだけど、落ち着く。

「ここってどれぐらい広さあんの?」
「40畳ぐらいかな?よくわかんないけど。」
名津子の声のするダイニングに行けば、8人がけの大きなテーブル。
…家族多いのか?

ダイニングを越えた先に、アイランド型のキッチン。巨大な冷蔵庫。
すべてが大人数が想定されたものばかりだ。

「名津子、一人で住んでんの?」
「はい。そうですよ。私と10匹の猫で。」
「家族は?」
「…いないです。」
「えっ?両親も兄弟も?」
「はい。両親は亡くなりました。兄弟はもともといないです。私、一人っ子なんです。」
悲しそうに俯く名津子を見て、何で亡くなったのかは聞けなかった。


「コーヒー入りましたよ。どうぞ。」
名津子からコーヒーを受け取り、ソファに戻った。

俺が座ったのを見計らったように、猫たちがくっついてきた。
…かわいい!思わず膝に乗った猫を撫でた。

「ジュノさん、気に入られましたね?」
「うん。コメンイみたいな猫だね。アイツはこんなに愛想よくないけど。」
「大きいでしょ?重かったら降ろしてやって下さいね。」
「大丈夫…ねえ、何でこんなにいるの?ブリーダー?猫カフェでもやってんの?」
「違いますよ。みんな捨て猫だったんです。つい拾っちゃって。」
名津子、オマエの性格上ほっとけないのはわかるが、限度があるだろう?

「私、お風呂入れてきますね。」
席を立ち、バスルームに向かった名津子が見えなくなり、
膝の猫に目線を移した。かわいい!クリクリの目で見つめてくるぞ!

…次の瞬間、俺は思いきり噛まれた。
「痛っ!」
「どうしたんですか?」
「コイツ、噛んだ!」
「えっ?アンタそんなことしたの?ダメよ、噛んじゃ。」
名津子の手にすり寄る猫。さっきまで血走った目で噛みついた猫と思えない。

名津子がバスルームに戻った瞬間、猫は俺を見てニヤっと笑った気がした。
コイツ、俺のことキライなんだ。

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