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売り専ボーイ・ナツ

第3章 初めてのお客さん

ドアはノックしなくていいんだよな。

どうでもいいことなのに、頭の中でさっきのコウさんとの会話を繰り返していた。

ドアが開く。
薄暗い。
明るいマンションの廊下と対照的に、薄暗い部屋の中。

そうだった。
さっきは写真を撮るために明るくしてたけど、この部屋は暗いんだった。

頭の中の最悪事態の想像では、部屋の中は明るかった。
しまった。最悪を考えていたはずなのに、さらに環境が悪い。

でも、気持ち悪い相手の顔をあまり見なくていいなら逆に好都合か。

一瞬でそんなこと考えが頭をめぐった。

「失礼しまぁす」

ドアを閉めて外光が閉ざされた薄暗い部屋の玄関。
様子を伺いながら出した俺の声は、さっきのドアチャイム以上に間延びして間抜けだったと思う。

返事は、ない。

戸惑いながらも、言われたとおり部屋の中に進む。
言われたとおり、ベッドの中にその人はいた。
暗くてよく見えない。

ベッドサイドでうっすらともるライトは、その人の頭が黒髪だということだけをうつし出し、半分枕と毛布で隠れた顔までは見せてくれなかった。

躊躇している場合じゃない。
俺は決心し、ベッドに入った

「えっとぉ。失礼します」

また間抜けな声が出た。
相手は声を出さなかった。

がっしりと股間を触られた。

「まだ硬くないね」

ここから俺は不思議と冷静だった。

にっこり笑って、お客さんの腕に勝手に頭を乗せた。

「名前は?」


「ナツです」

昨日まではなかった新しい自分の名前を名乗る。
どうでもいい世間場話。

また股間を握られた。

「硬いじゃん」

俺は勃起していた。
さっきまであれほど緊張してのに。
心臓はまだ高鳴っているようだった。
不思議と頭の中だけが冷静だった。

「シャワー行くか」

予定通りの流れだ。

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