普通×地獄=不幸↓
第1章 最初の夢と現実
6月某日、日曜日。子供達が実家に遊びに行っていた。実家といっても家から歩いて20分くらいのところだ。夕方になり妻が迎えに行った。子供達が帰ってくると、「お父さん、コーチの奥さんが亡くなったよ」と、言ってきた。末期癌とは私も前から聞いていた。まだ60歳前だと思う。長男が小学校の時、バスケットボールクラブのコーチだった。実は、私もバスケをやっていた。それもあってサブコーチをやっていた。私が小学の時、転校して引っ越してきた家の隣りに住んでいた。私のことは、そのころから知っている。私も、もちろん知っていた。私も大人になり、長男がバスケをやりたいと言って始めた。まさか、こんな形で会うとは思わなかった。当然、コーチも驚いただろう。コーチの奥さんは、もっと驚いただろう。長男が大会の時、母が応援に行った時に挨拶したらしい。よく、練習試合や大会が終わってから、バスケクラブの父親が集まり飲んだ。大会は全て優勝した。長男が中学になり、会うこともなかった。最後にあったのは、約3カ月前だった。私が免許取消になって東京の就職が決まった会社に行く前だった。妻と買い物中に偶然あった。コーチと奥さん二人で買い物していた。奥さんは、治療中だとは知っていた。しかし、見た感じでは全然元気であった。妻と奥さんは、しばらく話しをしていた。あれが私が見た最後の奥さんの姿だった。私が小学生の時、毎朝「おはようございます」と挨拶すると「いってらっしゃい」と手を振ってくれた。奥さんも、まさかバスケの子が私の長男だと最初は思わなかっただろう。妻や長男は、お通夜に行くようだが今の私は顔も出せない。きっとコーチは、私はまた県外の現場で仕事しているのだろうと思っているだろう。本当ならば、私が一番に行くべきだろうが。 つづく