
愛のカタチ
第1章 ON~社会人×大学生~交わる心編~
智「なんもないけど」
俺は大野さんの家に上がり込む事に成功した。
ちょっとどきどきする。
和「おじゃましま~す」
智「ふふ、そこ座ってて。コーヒー淹れる」
シンプルなその部屋はあまり生活感が無くて。
ふわふわと柔らかい雰囲気にそぐわない、大人びた部屋に見えた。
和「ほんと何も無いじゃん」
智「だから言ったでしょ」
本当の大野さんはこの部屋の様に大人の部分を持ってるのかな。
普段は見せないけど、ひょっとしたらそんな所があるのかもしれない。
智「はい」
和「ありがと」
小さなテーブルに置いたコーヒーがコトンと音を立てる。
あまりに静かで、その音がとても大きく感じた。
智「ふふ、なんかヘンな感じ」
和「なにが?」
智「和が俺の部屋にいるの」
そう言って俺の隣でふにゃっと笑う。
クスクスと笑いながら目線を落とし、コーヒーを啜るんだ。
智「ん?」
和「え?」
智「固まってる。緊張してるの?」
俺は見とれていたんだ。
コーヒーを持つ手が凄く男らしくて、なのに笑う顔はあどけなくて。
和「んな訳無いでしょ。なんで緊張なんてするのよ」
智「ふふ、そっか」
見透かされてる気がする。
大野さんのくせに。
智「見せて?」
和「へ?」
智「手品。新作あるんでしょ?」
あ。
智「…なんだよ。トランプ持って無いじゃん」
和「あ、あれ? 忘れちゃったみたい…」
チラッと俺を横目で見る。
笑ってなくて、少しきょとんとした様な。
智「本当にあったの? 新作…」
きょとんじゃないな。
俺を読み取ろうとしてる。
和「あったよ…。忘れただけだよ」
智「ふうん…」
その目。
何を考えてるか分からないその瞳が、俺を緊張させる。
たまにするんだ。
笑ってたのに急にこういう瞳をする時がある。
それはだいたい俺が嘘をついた時で、大野さんは俺を読み取ろうとするんだ。
智「お前のマジック好きなんだけどな。今日はお預けか…」
読み取れてるのかどうかは知らない。
だっていつも俺に合わせてくれるから。
俺の嘘を見抜いてても、言わないんだ。
