天然執事はいかがです?
第1章 プロローグ
広すぎる部屋に置かれたキングサイズのシルクのベッドに横たわる、少女。
寝癖でぐしゃぐしゃの頭をする主人の娘を、篠原家に仕えて40年の藤原老人が揺さぶる。
「お嬢様、菜月お嬢様。
お目覚めの時間ですぞ」
「爺や…あと五分……」
そんなお嬢様に見えない少女は身を更に縮めた。
「そのセリフは先程から五回目ですぞ……
今日は始業式では?」
「あーうん…始業式……
始業式!!?」
凄い形相でガバッと起き上がった菜月に、藤原老人の心臓は驚きのあまり、止まりそうになった。
菜月は恐い顔のまま、ベッド脇に立つ藤原老人に訊ねる。
「今何時!?」
「七時半でございます」
「ウソ!!いつも出てる時間より30分も寝ちゃったぁぁぁ!!」
藤原老人は、頭を抱え悶絶する菜月を、いつも面白い方だ、と思いながら微笑んだ。
「車をお出し致しましょうか?」
一応それ相応の助け船を出してみる。
「いらない!!いつも通りチャリで行く!!
爺やに頼ってらんない!!」
じゃあ朝、起こすのはどうなるのですか……
藤原老人は密かにそう思い、軽く会釈をしてから、部屋を出た。