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天然執事はいかがです?

第6章 価値と気持ち




次の日


私は屋敷の黒い車の助手席に乗った。

すぐにアルトさんが運転席に乗る。


「シートベルトしましたか?」

「うん」

「では行きますよ」


車で片道10分の通学路を走る。


「アルトさん、運転うまいね。
ちゃんと免許持ってたんだ」

「免許を持っていないで運転したら捕まってしまいますよ」


アルトさんは前を見ながら、困ったように笑った。


じゃあアルトさんは18歳以上…

私よりは確実にいっこ上か…


「ねぇアルトさん」

「何でしょう?」



今思えば出来心だった。

訊かなければ良かったと思う。




「アルトさんていくつ?」

「はい?」

「アルトって名前も本名っぽくないよね。本名は……」

「それは菜月お嬢様の知る必要のないことです。
私は執事であり、それ以上でもそれ以下でもございません。
……ですが」



バッグを掴む手に力がこもった。


「ご命令ならば従いますよ」


アルトさんがそのとき見せたのは、いつもと違う笑顔だった。

「いい…命令って好きじゃないから……」



アルトさんは執事なんだ。

必要以上の詮索を好まないんだろう……



そのあと学校につくまで、どちらも口を開かなかった。




心臓辺りがチクリと痛んだ気がした。



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