天然執事はいかがです?
第6章 価値と気持ち
「菜月、大丈夫?今日なんか元気ないね…」
舞弥が心配そうに塞ぎ込んだ私の顔を覗いた。
「ちょっとアルトさんとケンカした……」
ケンカした訳ではなかったけど、うまく説明が思い付かず、そう言ってしまった。
「そうなんだ…早く仲直りしなよ?」
「うん……」
舞弥は私の頭をポンポンと二回優しく叩いた。
「落ち込むなって!!」
「………」
「菜月…?」
「私やっぱり良家なんかに生まれなきゃよかった…!!」
そうすればアルトさんにも出会わず、こんな苦しい思いしなくて済む。
良家の娘なのに、頭が悪いとか、男みたいだとか悪口言われなくなる。
「菜月、屋上行こう」
舞弥が低い声で言った。
「でももう授業が…」
二分もしないで変態教師の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。
「あんたのそんなに辛そうな顔、あまり周りに見せたくない。
今日は授業サボろ?ちゃんと話して?
本当はケンカなんかじゃないんでしょ?
菜月は口も達者だし、強いんだもん。
ケンカなんかでそんな…」
舞弥は私の目を見た。
「泣き出すような顔しない」
私は黙って舞弥に手を引かれ、屋上に向かった。
だけど屋上に着く前に、涙がポロポロと流れ落ちた。
泣いたのは、母方の祖父が亡くなったとき以来だった。