
天然執事はいかがです?
第9章 縁談前日
姉さん。
私、姉さんが羨ましいよ。
なんで私は無理矢理婚約なんてしなきゃならないんだ……
ブランコの動きもやがて止まり、足元の砂利にポタリと水滴が落ち、色が変わった。
…雨?
いや、違う。
……私が泣いてるんだ。
「うっ……うぅ………」
すると目の前にハンカチが差し出され、私は顔を上げた。
アルトさんだった。
いつものように困ったように笑っている。
「涙を拭いてください。お嬢様」
私はハンカチを受け取り、涙を拭った。
「ちっ違うもん…!!涙なんかじゃないし!!目から汗が出てきただけだよ!!」
思った以上にとんでもないことを言ったが、それを見てアルトさんはただただ笑っていた。
「帰りましょう。お嬢様。
屋敷で奥様や旦那様がお待ちですよ」
あんな家帰りたくない…
ふてくされていると手を取られた。
シルクの布に包まれたアルトさんの手は布越しでも温かかった。
「帰りましょう」
親が小さな子供に言い聞かせるかのように、アルトさんはもう一度そう言った。
私が渋々頷くと嬉しそうに微笑んだ。
……私達はそれを誰かに見られているとも知らずに。
