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天然執事はいかがです?

第14章 沢渡夫婦




はーい、と返事が返ってきた。


私はドアノブに手をかけた。

扉からキィィと頼りなさげな音がする。


アルトさんは机に向かい、仕事の勉強をしていた。

机にかじりついているため、こちらが誰かわかっていない。


「アルトさん」

「ッ!!菜月お嬢様!?
なぜここに…!!」

私は部屋には上がらず、靴を脱ぐ所に立ったまま、用件を伝える。


「あの…さっき頼み損ねちゃったんだけど……
明後日のパーティーのダンスの……私のパートナーになってくれませんか……?」

「え…私、ですか…?」


アルトさんは目を見開き心底驚いている。

「ダメ…かな?」


私は恥ずかしさのあまり、俯きながらもじもじしていた。


「でも私みたいな使用人が社交界に足を踏み入れるのは…」

「それがね…
父さんの許可はもう取ってるの……それでもダメかな?」


アルトさんは俯き、口を閉ざした。



やっぱり迷惑だったかな……

「やっぱ迷惑だよねッ!?
今の取り消……」

「いえ。やります」

「…へ?」

予想外な返事に、間抜けな声が出てしまう。


「私で良いのなら…菜月お嬢様のエスコート、全力で頑張らせていただきます」


アルトさんは優しく笑ってくれた。

それに身体中が熱くなる。

「あ…ありがと……
…えと、それだけ、だから……
か、帰るねッ!!」


バタンッと扉を閉め、私は自分の部屋へ向かって走り出した。



小さくガッツポーズをしながら。



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