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第2章 SO~研究員×小人~逆襲の小人編~
ガチャ...
風に押され、ドアは静かに閉まる。
俺はと言えば、別れの言葉と共に残されたあの笑顔のせいで、その場から動く事が出来ずにいた。
翔「さと...」
今更名を呼んだって遅い。
あの人は、もう俺の前から居なくなってるんだ。
翔「俺、家知らないんだよ」
小人の俺は、あの人のポケットで揺られて。
ふわふわして楽しくて、周りなんてたいして見てなかった。
翔「電話番号だって知らないのに」
俺と智くんの家の間に、あの公園がある。
だけどそんなの知ってるからって、何も無いんだ。
翔「あんな公園、来ないでしょ...」
会いたいと思った時、どうやって捜せばいい?
翔「恋をしたって、言ったのに」
触れたいと思った時、どうやって見つければいいんだ。
翔「現実って何なんだよ」
この数日は幻想だったとでも言うつもりなのか。
俺は確かに智くんに触れて、智くんだって確かに俺の温もりを感じた筈だ。
それなのに。
あの人は、あっさりと俺の前から居なくなってしまったんだ。
翔「あ~っ、くそ...」
こんな時、人を好きになった事の無い俺は無力だ。
今までの恋愛ごっこなんて、只単に時間が過ぎて行くのを待ってただけだ。
恋愛のノウハウなんて知らない。
どうすればあの人が戻って来てくれるのかなんて、俺には分からないんだ。
翔「はぁ...」
出て行くのを止める事の出来なかった俺は、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
出るのは深い溜息ばかりで。
翔「時間、戻す薬って作れるかな...」
出て行こうとしたあの瞬間、手を伸ばせば良かったんだ。
手を伸ばしてあの人の腕を掴めば良かった。
こんなに後悔した事なんて無いよ。
時間を戻したいなんて、初めて思った。