続・あなたの色に染められて
第7章 キズナ
…何やってんだ
帰って早々 挨拶もしないで璃子を壁に押し付けた。
もっと嫌がれば良いのに…
押し付ける唇に驚き 胸に手を当て押し返そうとしたって
大して力なんて入ってなかったし 絡まる赤い舌も拒みはしなかった。
だから…もう止められなくて
揺れる瞳が時にぶつかり合う けれど抵抗はしないおまえを無我夢中で抱いた。
『…んぁ…ハァ。』
結局 兄貴のために何もしてやれることのない自分が悔しくて苦しくて
『悪い 黙って。』
こんなことしたって俺の心は落ち着くはずないのに
絶対に後悔するはずなのに
『…京介…京介。』
それなのにおまえは俺の耳元で名前を愛しそうに一生懸命紡ぐから
『…璃子。』
俺はその唇を貪るように愛した。
長い口づけのあと苦しそうに吐息を漏らす璃子と視線が重なる。
…俺は何やってんだ
重なった瞳は優しい眼差しなんだけど 涙をいっぱい溜め込んでいて
『…ゴメン。』
璃子は首を振ると俺の頬に手を添えて 乱れた吐息の合間で
『ちゃんと言えたんですね。』
なんて 俺の頬を撫でながら微笑んで優しくキスをした。
それはご褒美のキスなのか それとも慰めのキスなのか…
どちらにも取れる璃子らしい甘いキス
『…私でよかったら…愛してください。』
私にすべてを吐き出せと言わんばかりに自ら体を捧げ
『…璃子。』
俺の苦しみをすべて包み込んでくれた。
*
ただ何かを拭い去りたくて果てたその先
璃子は穏やかに微笑んで俺の髪を優しく撫で
『…大丈夫…大丈夫ですよ。』
玄関に座り込んだ俺を胸に抱いた。
兄貴と話して戻ってきたとき沙希は目を張らしていた。
兄貴は白黒つけるつもりだ。
兄貴のために新しい命を抱いた香織さんと溺愛するしーちゃんのために…
俺は沙希に何も言えなかった。
違う…伝える言葉が見つからなかったんだ。
兄貴と沙希の問題…
誰も幸せになれないかもしれない。でもあやふやになんか出来ない。
甘い香りのする胸の中から顔を上げると璃子は俺の額に頬を刷り寄せて
『私がついてますから…。』
だなんて さっきまで俺はおまえの心を無視してこんな冷たい場所で無理やり抱いたのに
『…璃子。』
その言葉がすげえ嬉しくて、すげぇ心強くて 璃子の小さな背中に腕を廻した。