続・あなたの色に染められて
第7章 キズナ
『ちょっといい?』
翌日 京介さんと会議室でお昼を食べているといつものように沙希さんが顔を出した。
『なんだよ。』
昨日の今日なのに彼女は平気で京介さんの隣を陣取った。
『今日はコーヒー要らないから。』
と いつもこのタイミングでコーヒーを取りに行く私を座らせると
『これ。』
『なんだよ。』
真っ白な封筒を差し出し
『京介に託すよ。』
スーっと机に封筒を滑らせた。
その封筒を京介さんは手に取ることはせずに溜め息を漏らすけど 沙希さんはそんなこと気にもせず言葉を続ける。
『昨日 竜兄からDNA検査してくれって言われちゃって。』
…昨晩京介さんは新しい命を抱いたばかりの竜介さんたちの絆が壊れてしまうんじゃないかと不安を胸に抱えて私のもとに帰ってきた。
それに比べて沙希さんは普通っていうのかな…それとも何か心に決めたのかな
『でも 検査はしないわ。』
『なんで?そういうのは和希のためにもハッキリさせた方が…。』
どっちの味方をするつもりもないと昨日苦しい胸のうちを話してくれた京介さん
でも 何にも知らない和希くんの味方ではありたいと彼らしい本音を漏らしていた。
『もういいの…亡くなったダンナの子でも竜兄の子でも和希は和希だもの。』
沙希さんは長い黒髪を耳に掛け 私を見据えてニコリと笑うと
『まぁ…京介の子だったら白黒つけて死に物狂いで奪い取ったけどね。』
『…沙希。』
なんて笑って言うけどそれは本心なんだと思った。
『敵わないわよ。女なんか二の次だった男の心をそこまでガッチリ掴まれちゃ…。』
だって顔は笑っているのに瞳は悲しげで
『その選ばれた女もダンナのために平気で身を引こうとするんだもん。そんなのズルいよ…私には出来ない…。』
掠れた声を耳にしてふと視界を上げると彼女は目に涙を浮かべてて
『私も璃子ちゃんみたい素直になれば愛してもらえたかなぁ。』
溢れないように天井を見上げながら立ち上がると後ろ手に手を振りながらこの場を後にした。
あんなに振り回されたのに呆気ない幕切れ
…人ってそんなものなのかな
そう思ったらなんだろう…急に体の力が抜けた。
その力の抜けた体は彼の胸に吸い寄せられる。
『…璃子。』
掬い上げられるように重ねた唇はどこか切なくて
『…もっと』
少しでも離れたくなかった。