続・あなたの色に染められて
第7章 キズナ
辞表を提出した沙希さんはある意味潔く週末に笑顔で退職した。
短い期間で営業部のあれだけの仕事を担ってくれていたから別れを惜しむ声は多かったけど 辞める本当の理由なんてみんな知らない。
だから、もう少し条件のいい職場が見つかったと笑ってこの場を去って行った。
竜介さんも責任の一端を背負い 和希くんのためにと事務の仕事を紹介したらしいけど彼女はその優しさに甘えることはなかった。
*
『…璃子?』
『あ…はい。』
お決まりのいってらっしゃいのキスも忘れてしまうほど心が定まらない私
『大丈夫かな。』
それは 律儀な竜介さんがこの話を出産したばかりの香織さんに話たと聞いたからだ。
いくら 確証はないとはいえ笑って聞ける話ではない。ましてやまだ体調だって戻っていないはず…
そんな香織さんに平日お休みの私は今日会いに行こうとしていた。
京介さんはそんな私の頭をポンと叩いて微笑んで
『おまえなら大丈夫だよ』
そう言って私を抱きしめ優しいキスをくれた。
***
私たちのマンションから一番近くにあるファミリータイプの大きなマンションに竜介さんたちは住んでいた。
オートロックの自動ドアの前で部屋番号を押してチャイムを鳴らし
…よし。
私は小さく息を吐く。
手にはしーちゃんの大好きなシュークリームと今朝作ったサンドイッチ
「はーい!」
『あ…璃子です。』
来ては見たもののどんな顔で香織さんに会ったらいいのか悩みに悩んでいたんだけど
「入って!」
…なになに?!
切羽詰まったドアホン越しの声色に私はエントランスを駆け抜け颯爽とエレベーターに乗り彼女の待つ部屋へと向かう。
茶色い玄関扉の前で息を整えながらチャイムを鳴らすと
ガチャ!
勢いよく開いた扉から顔を覗かせた香織さんはスッピンにお団子姿の出で立ちで
『璃子ちゃ~ん!』
『…え…えぇ~!』
私の顔を見るなり片腕を引っ張ってズンズンと部屋の中へ招き入れ
『救世主だよ~。』
なんて言いながら香織さんがリビングに入ると
…え
『ママー!』
おもちゃをリビングいっぱいに広げてお絵描きをするしーちゃんと
ベビーベットで一生懸命に泣き声を上げる小さな小さな赤ちゃん
『もう…寝てくれないのよぉ。』
疲れきった香織さんは私から手を離すと大きな溜め息をこぼした。