続・あなたの色に染められて
第7章 キズナ
『本当にありがとう。』
『いえいえ。』
ソファーで授乳をしながら何度も私に頭を下げる香織さんの顔が少し晴れた。
お片付けをしながら聞いた話によると お世話をしてくれていた実家のお母さんが風邪を引いて来れなくなってしまって途方に暮れていたのだそう。
『竜くんも仕込みが始まるからお願いできなくて…。でも本当に助かった~ありがとう。』
『もういいですって。』
私はしーちゃんにサンドイッチを食べさせながらふと思った。
穏やかに微笑みながら赤ちゃんを抱く香織さんは沙希さんと竜介さんのことを知っている。
それなのにさっきからその話は一切出てこない…ううん触れてもこなかった。
『どうも。』
私はしーちゃんが差し出したサンドイッチを食べながら心の中で溜め息を吐くと
あれ?誰か来た?
玄関の振動と共に微かに音が聞こえると
『香織~大丈夫か~?』
慌ただしくリビングのドアを開けたのは
『竜くん!』
酒屋の前掛けをしたままコンビニの袋をぶら下げた竜介さんで
『おじゃましてます。』
『ただいましーちゃん!あれ?璃子ちゃん来てくれたんだ。香織良かったな。』
時計を見るとお昼を10分過ぎたころ
きっと 香織さんが心配でお昼休みに抜け出して駆けつけてきてくれたんだろう。
竜介さんは香織さんの傍に行くとやっと眠った赤ちゃんを抱き上げてベビーベットにそっと寝かせた。
香織さんは泣き出さないことを確認すると背を伸ばしながらベビーベッドに近づいて
『やっと寝たぁ。』
『コイツ寝ないからなぁ。』
なんてベッドの柵に寄りかかり微笑みながら寝息を立てる赤ちゃんを見つめていた。
その光景を眺めていたら悩んでいた自分が急にバカらしく思えて
そか…そういうことか…
テーブルには食べきれないほどのおにぎりが入ったコンビニの袋
『しーちゃんもおいで。』
『ハーイ!』
二人は私たちが心配するまでもなくちゃんと固い絆で結ばれていた。
その絆はたくさんのことに向き合って積み重ねた時間によってより強く太いものになったのだろう。
だからどんな大きな障害もきちんと飛び越えられたんだ。
じゃあ、私たちは?
そうだね…まだまだ細い糸を慣れない手つきで紡いでいる途中
いつか私たちもあんな風に寄り添える家族になれたらって そう思ったら無性に京介さんに逢いたくなった。