続・あなたの色に染められて
第8章 1th Anniversary
『美味しい!』
『これは並んだ甲斐があったな。』
開店前に着いたけれどさすが有名店、休日ということもあり30分ほど並んで名物の親子丼をいただいた。
丼の蓋を開けると大きな瞳をさらに丸くして トロトロの卵を口に運べば今度は目を細めて感嘆の声をあげて
『幸せ~。』
たった一杯の親子丼におまえはコロコロと表情変えた。
今朝から振り撒くこの笑顔に触れる度に俺こそ幸せを分けてもらっていた。
『お家ではここまでトロトロにするのは無理かなぁ?』
『老舗の技だからな。』
研究熱心な俺のカミさんは微笑んでいたかと思うと今度は何やら難しい顔をしながらトロトロ卵とにらめっこ
『うん、今度挑戦してみよう!』
まぁ…料理上手なおまえならそうなるよな
この一年、どんなに仕事が忙しくったってスーパーの惣菜がテーブルに並んだことなんてなかったな。
口に出したことなんてなかったけど テーブルに付くたびに感謝の気持ちを込めて手を合わせていた。
『ごちそうさまでした…また来たいね。』
『そうだな。次はお礼参りのときかな。』
『…だといいな。』
微笑みながら撫でるその腹に天使が舞い降りて来たときにはまた二人で来ようと約束をして席を立った。
『ほら手…。』
『待って。』
美味しい親子丼を堪能した俺たちは朝停めた駐車場まで手を繋いで散歩気分で向かう。
今日のこと サプライズをするつもりではなかったけど いつだって自分のことを後回しにするコイツのことを考えると事前に話さない方がいいなって思ってた。
これから向かう場所もそうかな…
こんなに長くいるのに連れてってやったことなんかなかったよな。
『…水族館?』
『イルカのショーが見たいってこの間言ってたろ?』
目を輝かせ繋いだ手を大きく振って全身で喜びを表すおまえ
『でも…』
『ん?』
そうかと思えば今度は上目使いで申し訳なさそうに
『私ばっかり楽しんでない?京介さんは行きたいところないの?』
ほらな…始まった
『俺はいいから。』
だって俺は…
『行くの行かないの?』
『行く!行きまーす!』
その笑顔が見れたら
『ねぇ、ペンギンいるかな?』
『いるんじゃねぇの?』
『じゃあ イルカのショーも見ていい?』
『イルカでもアザラシでもお供させていただきますよ。』
それだけで十分だから。