続・あなたの色に染められて
第10章 マタニティ・ライフ
『ん。』
『もういらない。』
プイッと璃子に横を向かれ 俺は唇に挟んだイチゴを自分の口内にスライドさせた。
『ん、今日のは上手いな。』
『でしょ?』
今日は八百屋のおっちゃんにいつもより高いイチゴを薦められたって言ってたっけ
『やっぱり私ももう一つ食べようっと。』
パクリと赤い果実を頬張れば顔の筋肉を緩めてそれは幸せそうに目を細める。
今日はたぶん調子がいい。
昼飯も夜飯もいつもより手を付けていた。
『…璃子。』
そんな日は甘酸っぱい香りで満たされたその可愛い唇を頂ける。
…チュッ
最近 ヤキモチ妬きな俺たちのベビーのせいであまり堪能させてはもらえないけど
『何赤くなってんだよ。』
『…別に。』
重ねることが少なくなった分 コイツはまた違った表情を俺に見せてくれた。
まぁ 本心はもっと味わいたいし感じたい
でも コイツは俺はまったく気にしてねぇのに すげぇ悪阻のこと気にして
肩に廻した手で顎をクイッと持ち上げてもう一度視線を重ねると
『…それはダメです。』
察するんだな。その愛らしい唇を手で隠してしまう。
**
私たちは悪阻が始まってからもう一ヶ月以上 甘くて深いキスをしていない
…ううん正確に言うと私が拒んでいた。
最初は本当に出来る状態じゃなかった。それどころか少しだけ触れることすらイヤだった。
でも 最近は少し体が慣れたのか あの冷たい唇に触れたいなって…酔いしれたいなって…
ふと思いを込めるように彼に体を預けると
…え 待って
顎をクイッと持ち上げて
…あっ これはヤバイやつだ
瞳が重なると
『…それはダメです。』
本当はしたいのに…でも嘔吐いてばっかりだから拒んでしまう。
でも…
…あっ
『…もう限界』
塞いでいた手をそっと握られると
…ダメだよ その射抜くようなその瞳
体の力は自然と抜けて
『…んっ』
一度重ねてしまえばこの冷たい感触に心の糸までもほどかれる
そう…京介さんのキスは私を骨抜きにしてしまうから
『イチゴの味がするな。』
何度も何度も落ちてくる唇に酔わされて 自然と彼の胸に手を添えて
その唇に…赤い舌に酔わされる。
『もっと食べていい?』
コクりと頷くとまたイチゴ味の私の唇を味わった。
久しぶりに彼に酔いしれたのは 1月の月が綺麗な夜だった。