続・あなたの色に染められて
第10章 マタニティ・ライフ
『あ~美味かった。』
『お粗末様でした。』
午後から営業に出た京介さんは得意先でもたくさんのチョコレートを貰って帰って来た。
『誰に貰ったか忘れる前に名前控えておいてくださいね?』
『あ~面倒臭ぇ。』
紙袋二枚分…何個入ってる?
ホワイトデーに配り忘れがないように記憶を辿りながら確認していく大切な作業
『璃子も手伝ってよ。』
『イヤです。』
食器を片付けながら即答で答えてしまう私はもちろんヤキモチを妬いていた。
『ケチ。』
ブツブツ言いながら、時おり天井を見上げ記憶の糸を手繰り寄せる京介さんが悪い訳じゃないけど
仕事上の付き合いとはいえ私がいるのにあんなに貰って…
その中にはもしかしたら淡い期待を抱いている人だっているかもしれない。
…ハァ…大丈夫かなぁ
今日こそは京介さんとぬくもりを分かち合いたい。
でも、ずっと赤ちゃんに悪い影響があるんじゃないかと拒み続けていたから タイミングというか受け入れ方がわからなくなってる。
…でもなぁ
今日は女の人から想いを伝える大切な日
…ハァ
もし誘ってもらえなくても私から誘わなきゃいけない日…
よし…とりあえずお風呂にでも入ろ
食器を洗い終わると溜め息を吐きながらバスルームへと向かった。
**
赤ちゃんがお腹にいるとわかったあの日まで時間が合えば二人でお風呂に入っていたのに 悪阻がキツくなるのと同時に京介さんは入って来なくなった。
だから ここ最近お湯の色はずっと無色透明…
一人で入れば足だって伸ばせるし 自分のペースで上がれるのに
『つまんないなぁ。』
溜め息混じりに心の声を漏らし肩を沈めると
…ガチャ!
『…ギャッ!』
ノーマークだった。
『なに変な声上げてんだよ。』
『な…何で?』
私の問いかけを無視しながら髪をワシャワシャ洗い始めた。
今さっきまで私は彼とのバスタイムを望んでいたのに
『逃げんな。』
『…ひゃい!』
『もっとこっち。』
彼の胸元に私の小さな背を引き寄せられると久しぶりだから凄く恥ずかしいんだけど
私の肌を滑る大きな手が心地いい
『機嫌直してこっち向けよ。』
ズルいよ…そんな瞳で見つめられたら
『…京介さん』
私の心は一瞬で高鳴る。
そして重なる唇にすべてを委ねてしまう
…ホントあなたには敵わない