続・あなたの色に染められて
第11章 Hello! My Baby!!
『ダンナさんは奥さんの手をしっかり握っていてあげてくださいね。』
『は…はい。』
子宮口が全開になり分娩台の上に上ったのは11時ごろのことだった。
『痛みが来たら顎を引いて力んでくださいね。』
俺は予防着を着せられマスクをして璃子の手を握りしめる。
『大丈夫。』
分娩室に入ることが出来ないお義母さんと職場から駆け付けた親父さんと俺のお袋は廊下の椅子に座りその時を待っていた。
『俺が付いてるから。』
璃子は口を真一文字に結びコクりと頷くと
『あ…っ…』
『ゆっくり息してくださいね~。』
また陣痛の波に拐われた。
俺の想像を遥かに越える陣痛の波
璃子は大声をあげることもなくただひたすらその波と向き合っていた。
『頭が見えてきましたよ~。』
額を汗で濡らし助産師さんの合図で必死に力むその姿に俺はもう胸がいっぱいで
『がんばれ。』
とにかく“無事に生まれてきてくれ”なんて心の中で俺の知りうるあらゆる神様に祈った。
*
分娩台の上に上って一時間 真っ青な空のてっぺんに陽が昇ったころ
『はい、ラスト!力んでー!!』
それは想像していたよりも神秘的で
『おめでとうございます!』
『産まれた…』
…オギャー…オギャー
『元気な男の子ですよ。』
『ありがとうございます…ありがとうございます…』
唇を震わせ大きく口を開けて
産まれたよ…ボクは産まれたよ
って 必死に泣くその姿が何よりも愛しくて
『京介さん、野球教えられるね。』
『ありがとう…璃子…』
産まれたら璃子にたくさん言葉をかけてやろうって思ってた。
『本当にありがとう…』
なのに…これ以上の言葉が見つからない。
『なんだか照れちゃう。』
『いや…本当によく頑張ってくれたよ。ありがとう。』
繋いだままの手をギュッと握りしめた。
**
『手がデカイな。』
『そう?小さいよ?』
出産は本当に不思議だった。
あんなに苦しかったのに産まれると一瞬で喜びが弾けて苦しみが吹っ飛んだ。
京介さんは溢れる涙を乱暴に拭きながら我が子の小さな手を広げ
『コイツ野球メチャメチャ上手くなるぞ。』
小さな掌に人差し指を添えた。
すると ゆっくりとその長い指を小さな指が包み込む。
『はじめまして パパとママだよ。』
京介さんは小さな小さなその手にキスをした。