テキストサイズ

続・あなたの色に染められて

第2章 幼馴染み


『…は ~ぁ…。』

仕事がうまく進まないときやオーバーワーク気味なとき 私は自販機で買ったカフェオレを片手に中庭のベンチでこの茜色の空を見上げる。

『ダメだな…私って。』

沙希さんがこの職場に来てから ほぼ毎日こんな状況。

今日は土曜日。京介さんは幼馴染みの沙希さんたちとグラウンドへ行っていて

私は酒蔵見学に溜まりに溜まった仕事をこなす。

ずっと 二人で見てきたこの茜空。考えてみれば最近 肩を並べて見ることも少なくなっていた。

『…はぁぁ…。』

またひとつ大きな溜め息を吐くと

…ボスッ!

『痛った~い!』

『ったく 大袈裟なんだよ。』

振り返るといつものようにイタズラにケラケラと笑う風間くん。

『叩くことないじゃん。』

持っていた見学用のパンフレットで頭を叩かれた私。

『おまえが デカイ溜め息なんかついてるからだろ。』

『いいじゃない ちょっとぐらい溜め息ついたって。』

唇を尖らせる私の横にストンと腰を下ろすと

『また 沙希さんにヤキモチ妬いてんの?』

どうやら彼にはお見通しらしい。

『妬いてないもん。』

暮れていく夕陽を眺めながらそう呟いた。

『心配すんなって言ったろ?おまえの愛しいダンナ様はヤキモチ妬きの嫁さんにしか興味ねぇから。』

『だから違うって言ってるじゃん。』

いつも思う。風間くんも人を引き付ける何かを持っている。

それは言葉の強弱って言うのかな。その場の雰囲気に合わせて巧みに使いこなす。

『俺が飯 誘っただけであんなにヘソ曲げるダンナ様だぜ?』

いつかのように頭にポンと手を置かれると

『璃子ちゃんは笑ってなきゃ。その笑顔がみんなの心をあったかくするんだから。』

瞳を合わせて言葉を紡ぐから その言葉が私の心をギュッと締め付ける。

見上げればまたケラケラと笑う憎めない笑顔で

『まぁ チビは大人の色気には勝てねぇからな。』

『なにそれ。』

『なぁ チビちゃん。』

『もう!』

ほんの少しだけど私の心をリセットしてくれる。

『ほら いつまでもグチグチしてないでフランスからの見積もり出さねぇと。』

『わかってる!』

いつも追いかけてる背中よりも一回り小さな背中。

でも 今 私はこの彼にずいぶんと助けられていた。

その一回り小さな背中に私の大好きなオレンジ色の光が当たっていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ