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続・あなたの色に染められて

第12章 新しい生活


『どう?』

璃子はバターを塗っただけの少し焼きすぎたパンを小さな口でかじりついた。

味は保証するなんて偉そうに言ったけど料理のセンスが丸でないオレ

トーストさえもうまく焼けない。

でも

『美味しい。』

『だろ?』

お世辞とわかっていながらもたまの休日、目を細めながら頷く璃子の手伝いが少しでも出来ればと勝手にキッチンを使った。

『目玉焼きも美味しいね。』

『不格好だけどな。』

今までコイツと付き合ってからキッチンに立つことなんか数えるほどしかなかった。

『この黄身が潰れてるところが京介さんらしいね。』

『うるさい。』

産後明けで戻ってきたあの日から璃子は生まれる前と同じように家事をこなしてくれて

『ありがとう。』

『ん。』

俺はそれに甘えていたんだと昨日売店のオバチャンに気付かされた。…違うな。怒られた。

璃子が全然かまってくれねぇって愚痴ったら

「目玉焼きとトーストぐらいなら作れるでしょ!洗濯だってスイッチひとつでしょ!子供が先、ダンナは後!」

思いっきり肩を叩かれた。

夜中も恵介の授乳でろくに寝てないのに 朝飯と弁当を用意してくれていて

帰ったら飯も風呂も完璧。

俺はと言えば恵介を風呂に入れるだけでイクメン気取っちゃって

『洗濯も…ありがとう。』

見てくれの悪い朝飯と洗濯機のスイッチを押しただけなのに

『泣くなよ。』

『だって…』

たったそれだけなのに璃子は大粒の涙を溢す。

『ベビーベッド寝室に持ってくから。』

『それじゃ 京介さんが。』

わかってねぇな

『夜中に起こされるより抱き枕がない方が辛い。』

『…え。』

『オレ、ここ一ヶ月寝不足なんだよ。』

おまえのぬくもりを感じないと寝れないなんて俺も恵介並みにガキだけど

『おまえが隣に寝てないと落ちつかねぇの。』

たまにはストレートに口に出して伝えなきゃいけねぇって これまた売店のオバチャンに言われたこと

『わかったら返事は?』

『はぃ…』

『また泣く。』

椅子から立ち上がって泣いてばかりの璃子を抱きしめキスをする。

デザートが一番旨いなんて思いながら久しぶりに柔らかな唇を味わうんだけど

『オギャーオギャー!』

璃子の泣き虫なところと俺のヤキモチ妬きなところを受け継いだ我が息子

『おはよ、恵介。』

たまには俺にも譲ってくれよ。

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