続・あなたの色に染められて
第12章 新しい生活
『だから~俺がやるって言ってんだろ?』
洗い物をしている璃子に何度もソファーに座るように促すけど
『いいんです。ほら早くゲップ出さないとまた吐いちゃいますよ。』
俺に恵介を預け、パタパタとスリッパの音を奏で動き回っていた。
…これじゃいつもと一緒だし
少しでも璃子の力になりたいと早起きまでしたのに あまりの不甲斐なさに深い溜め息を溢す。
『掃除機かけたいので恵介とベランダに出てもらえます?』
『はいはい…』
いつもはここまで手が回らないからと色んな物を退かしながら璃子はせっせと掃除機をかけ
『おまえのママは働きもんだよな。』
布団と洗濯物で占領されたベランダで男二人、穏やかな秋の空と少しだけ乾き始めた秋の風を感じた。
『恵介 こういう天気の日を野球日和って言うんだぞ。』
少しずつだけど表情が出てきた恵介にまずは耳からの英才教育を始めていく。
『おっ 相変わらず握る力が強いな。』
親バカのつもりはないが 恵介は俺に似て手足がデカイくて踏ん張りも強い。
多分 コイツは化けると思う。
兄貴や俺なんか目じゃねぇほど素質があると俺は睨んでいる。
『そりゃそうだよな。おまえの誕生日「野球の日」だもんな。』
お盆だった予定日よりも一週間ほど早い 夏の太陽が照りつける8月9日
そう「野球の日」に生をうけたコイツに期待しない方がおかしいってわけ
『そろそろカラーボール買ってくっかなぁ。』
『あうっ…』
『そかそか よし、明日買って来てやるからな。』
薄い唇をパクパクと動かして声にならない声を上げ
『男の約束だぞ。』
俺は小さな手のひらに指でタッチをした。
『はーい!お待たせしました。』
真っ白なカーテンの向こうから愛らしい声
『なにニヤニヤしてんだよ。』
部屋に入ると璃子は俺たちを見ながら微笑んでいた。
『ここから見てた いい光景だったの。』
真っ白なカーテン越しに俺らの秘密会議が覗かれてた模様
『どんなお話してたの?』
『男の秘密。』
『なにそれ。』
ボスリと二人揃ってソファーに身を沈めると璃子を抱き寄せ
『キスしてくれたら話してやる。』
すぐに真っ赤になる顔を覗き込む。
『もう…』
恵介が見てる前だとかゴチャゴチャうるさいコイツ
そんなに頬を赤く染めて…
キスがしたいくせに 素直じゃねぇの。