続・あなたの色に染められて
第13章 空と白球とキミと
『璃子ちゃんが来てると本当に活躍しますよね。』
『そうか?』
ランナー二人を返す大きなヒットを打ったのにこの先輩はいつだってクールに決めやがる。
『ツーベース打ってそれっすか。』
そう京介さんは今も昔もチャンスをきっちりモノにするオトコ。
俺がベンチに入れずスタンドから応援していた高校時代から活躍してきた京介さんは 言葉とは反対に少し頬を緩ませながらベンチに座った。
『これで5ー0か。』
『あとはピッチャーが踏ん張ってくれれば…ってとこですね。』
7回裏。勝利を確信する一打を放った京介さんはいつものようにベンチの後ろを陣取って腕組みしながら残りの回を眺めていた。
『直也、おまえ今日出ねぇの?』
『出たいんですけどねぇ、腰が痛くって。』
学生の頃に痛めた古傷を擦りながら返事をするオレ。
『昨日頑張りすぎたんだろ?』
『は?』
こんな話の流れにするのはいつだって佑樹さん。
『頑張ってないすっよ。今日に備えてすぐに寝ましたよ。』
『ウソだ。おまえんとこ、今二人目頑張ってるって幸乃から聞いてんぞ。』
参ったな、長谷川さんまで
『まぁ それはそうですけど腰を痛めるほど頑張ってないですよ。』
本当に違うのに意地悪な先輩方は大切な試合中にも俺を虐める。
まぁ、それもベンチワークの楽しみの1つなんだけど…
『京介んとこはどう?少しは落ち着いた?』
『少し。まぁ相変わらず恵介中心の毎日ですけど。』
そういえば、試合前に俺らは珍しいものを見た。
もともと子供好きなのは知っていたけど よくそこまで目尻が下がるもんだと感心してしまうぐらい目を細め 誰もいないベンチで恵介を抱いていたっけ。
『長谷川さん、女の子ってどうですか?』
『ん?そりゃ死ぬほど可愛いよ。なに?佑樹んとこは次は女?』
『みたいです。』
佑樹さんのところは順調に二人目を授かり只今7カ月。
『おまえ今まで女泣かせてきたから苦労すんぞ。』
『京介には言われたくねぇよ。』
くだらないいつものやり取り。
あの頃と会話の中身は変わってしまったけど相変わらずバカこと言いあう俺ら。
野球から足を洗えない理由の第一位の理由はこれなんだよな。
『よし!行くぞ!』
『しっかり抑えてこー!』
グラブを握りしめ走り出す選手の背を眺めながら俺は大声で激を飛ばしていた。