続・あなたの色に染められて
第14章 言葉 ~番外編~
『もう行っちゃうんでしゅか?』
『お仕事だからね。恵介、ママと陽菜を頼んだぞ。』
『うん!』
たった一週間留守にするだけなのに出張の度に玄関で繰り広げられる子供たちとの儀式。
京介さんに抱きついた二人から頬に熱烈なキスのプレゼント
『いい子にしてるんだぞ。』
そして京介さんからも小さな額にチュッっと音を立てたキスのお返しをして
『璃子よろしく頼んだよ。』
『…はぃ。いってらっしゃい。』
私たちも結婚以来ずっと続けているいってらっしゃいのキスを交わす。
『陽菜ももう一回チュウしたいでしゅ。』
『ハィハィ。』
子供たちも大きくなっているからそろそろ止めようと一度提案したことがあったんだけど、京介さんは首を縦には振ってくれなかった。
『それじゃ、いってきます。』
『いってらっしゃーい!』
玄関の扉がパタリと閉まると
『陽菜!保育園の支度するぞ。』
『はぃ!』
早速恵介はパパとの約束を守るように陽菜をリードする。
「パパがいないときは男はおまえ一人なんだからしっかりな!頼んだぞ。」
京介さんが恵介に必ず伝える言葉。
その言葉を恵介も幼いながらに感じ取って 陽菜の面倒を見てくれたり私のお手伝いを率先してやってくれたり
…お兄ちゃんになったな
なんて私の心を温かくさせてくれる。
*
『うんと…どうしようかなぁ。』
『こちらの本店では今まで甘口を好んでいらしたんですけど…』
『そうなのよね。でもこのメールを見ると辛口もいいかもなって…』
京介さんのいない事務所で私は一人頭を悩ませる。
『それなら甘口と辛口両方送ってみるのはどうですか?』
ニューヨークの大きなレストランから来ていたオーダー。
『でも…』
私がここで働き始めてすぐについてくれた大切なお客様。信頼関係も築き、今じゃお酒の種類をこっちに任せてくれることも多くなっていたから
『いや、それは出来ないよ。』
…ここはしっかりもう一度吟味して
なんて、目を閉じ頭をフル回転させていると
『ここはやっぱりオーソドックスな辛口じゃない?』
…え
久しぶりに聞く慣れ親しんだ声に振り向くと
『ボクはここの蔵の代名詞、“浄瑠璃”だと思うけどな。』
三年前に実家のワイナリーを継いだ風間くんが私のパソコンの画面を覗いていた。