続・あなたの色に染められて
第14章 言葉 ~番外編~
『クソッ…』
『何をそんなに必死になってんだよ。』
出張先の北陸の居酒屋で突然電話を切られた璃子に何度も電話を掛けてるんだけど
『いい加減にしろって。奥さんだって仕事なんだろ?』
璃子はどうやらスマホの電源を落としているらしく クソ親切なアナウンスが繰り返し俺を突き放す。
『あぁ仕事だよ。でも普通ダンナが出張してる間に子供連れて男の運転する車で出張先に向かうか?可笑しいだろ。』
もう何本目かわからない熱燗に手を伸ばしやけ酒を食らうオレ
『おまえには「飽きる」って言葉がねぇんだろうな。』
『吉野、それどういう意味だよ。』
向かいに座る男“吉野”はここ北陸で有名な酒蔵の御曹司で次期社長。俺と立場が一緒なヤツ。
全国の酒造メーカーでの会合でちょこちょこ顔を会わせる毎に 気が合うというかウマが合うというか
『新婚でもあるまいし 嫁さん一筋ってかなり珍しいぞ。』
『…別にそんなんじゃねぇし。』
下手に気を使わなくていいコイツはこの業界で唯一俺が頼れるヤツで
『おまえも来月結婚だろ?そんなこと言ってたら嫁さん泣くぞ。』
『大丈夫だよ。オレは電話を突然切られるようなヘマはしないから。』
『吉野…』
ライバルであり悪友だった。
『…つうかさ、結婚ってどうなの?世間で言う墓場なわけ?』
『墓場ねぇ。』
野郎が結婚の話となると やれ墓場だ地獄の入り口だとどいつもこいつも口を揃えて言うけど
『吉野んとこはどっちがプロポーズしたの?』
『どっちかって普通男からだろ。』
『だよな。おまえそのプロポーズの言葉とかシチュエーションとか悩んだ?』
『そりゃな。一斉一代の大勝負ですから。』
『そんな大勝負賭けて結婚してくれって頼んだんだろ?それだけ惚れた女なんだろ?』
『まぁな…』
『だったら墓場も地獄もねぇよ。少なくとも俺は墓場なんて1度も思ったことはない。』
…少し飲み過ぎたか
璃子に会ったこともない吉野にペラペラと
『森田の嫁さんはどんな人なの?』
『普通だよ普通。』
『は?普通ってなんだよ。』
俺の中では璃子が基準だから普通ってこと
『うるせぇなぁ。じゃあおまえの嫁さん候補はどんな子なんだよ。』
別に心底知りたい訳じゃないけど
『オレが言ったら話すか?』
『おまえが言ったらな。』
たまにはこんな酒も悪くはないか…