続・あなたの色に染められて
第14章 言葉 ~番外編~
『…信用?』
『そう、信用。』
吉野は俺のお猪口に熱燗を注ぎながらそう言った。
『…してるよ。』
『ウソつけ、あんなにグチグチ言ってたのに。』
確かに毎回アイツの行動ひとつひとつに俺は難癖をつけていた。
それは璃子を愛してる証拠なんだと勝手に意味付けて…
『森田が不安になるのもわかるよ。辛い経験も味わってるんだから。』
でも、吉野は今までの俺たちを全く知りもしないのに まるでその時連んでいたかのように言葉を紡ぐ。
『でも、奥さんはおまえよりもっと辛かったんじゃないのか?』
『…。』
そんなの分かってるつもりだった。
『惚れた男が自分のこと忘れて元カノと結婚しようとした。んで、やっとの思いでもう一度心が通じあって元サヤに収まる。でも、別れていた間の奥さんの不貞行為は消えることはない。』
そうか…俺にも消したい過去があるように
『森田…まだ結婚もしてねぇ俺が言うのもなんだけど…』
璃子にも忘れたい過去があるんだ。
『もっと奥さんのこと信用してやれよ。』
俺の元に戻ってきてくれたあの日、璃子が涙を流しながらすがるように何度も頭を下げてくれた姿が脳裏によみがえる。
『…ハァ。』
俺のせいなのに…
アイツはひとつも悪くなかったのに…
『…吉野の言うとおりだな。』
反撃する言葉すら見つからない。
愛してる証が束縛となって璃子の心を未だに苦しめて
『…電話も切られるわけだな。』
俺は自分に呆れながらお猪口の酒を飲み干した。
喉に熱を持たせながら流れ落ちる日本酒
『それにしてもさ…』
吉野はテーブルに置いたままの俺のスマホをもう一度手に取って
『おまえにはもったいない奥さんだな。』
璃子の笑顔に頬を緩ませる。
『…あぁ、俺にはもったいない。』
『もっとツンケンしてる女だと思ってた。』
そういえば、璃子と出会うまではそんな女ばっかりだったな。
『おい、吉野の嫁さん候補も見せろよ。』
『俺はいいって。』
璃子に出会って俺はたくさんの色をもらったんだ。
『はぁ?人の可愛いカミサン見ておいて…ふざけるな。』
『バカ痛ぇっつうの!結婚式までのお楽しみにとっとけ。』
それは俺だけじゃパレットに作れなかった色で
『吉野ー!』
『アハハ…やめろバカ!』
璃子にしか作れない淡い幸せ色だった。