続・あなたの色に染められて
第14章 言葉 ~番外編~
『パパはまだでしゅか?』
『そろそろ帰ってくると思うわよ。』
ワイナリーでの試飲販売会も無事に終わり通常生活に戻った私たち。
『早く帰ってくるってお約束したのにな。』
子供たちはカーテンを開けて駐車場を眺めていた。
『陽菜、もうすぐだぞ。』
時計の針はもうすぐ21時。
いつも20時には夢の中の保育園で走り回ってるこの子たちに21時の壁は高くそびえ立ち
『起きたらパパ帰って来てるから早く寝れば?』
そう説いても 二人とも首を大きく横に振りながら
『陽菜、寝るなよ。頑張れ。』
『うん…頑張る…』
二人揃って目を擦り大きな欠伸を繰り返していた。
それから洗濯物をたたみキッチンの片付けをしてリビングに戻ると
『…やっぱり。ほら、風邪引くよ。』
膝掛けを毛布代わりにソファーに二人並んで目標を達成できなかった天使たち
…一週間ぶりだもんね
この子たちも私と一緒で京介さんの帰りを今か今かと待ちわびていた。
『よいしょ。』
風邪をひかないように陽菜を抱き上げ寝室に連れて行こうとしたそのとき
…カチャ
『ただいま~』
玄関から少し疲れが残る声が私の頬を緩ませる。
『お帰りなさい。』
陽菜を抱いたままリビングのドアを開けると 京介さんは残念そうに柔らかく微笑んで
『間に合わなかったか…』
私の腕から陽菜を抱き上げ寝室へ続く階段を登り
『腹減ってんだけど少し作れる?』
今度は恵介を抱き上げながら
『呑みます?』
私の唇に軽くキスを落として
『そうだな、少し呑むか。』
淡い期待を持たせた。
疲れているとはいえまだ大人の時間は始まったばかり
『卵焼き食いたいんだけど。』
『はい、いいですよ。』
オーソドックスな物をオーダーする。
『あとは何を作ろうかなぁ』
久しぶりに彼のために立つキッチンで鼻歌混じりに卵を溶く私
…ウフフ もしかしたら一番帰りを待ち望んでいたのは私だったかも
なんて、1人で頬を赤らめていたんだけど
あれ?…シャワー浴びてる?
京介さんが寝室から戻ってきた気配はなく
まさか…
階段を駆け登り寝室の扉を開けると
『…しかたないよね。』
京介さんはYシャツ姿のまま私の枕に頬を埋め子供たちを抱きしめながら夢の中へ
…仕方ない仕方ない
自分に言い聞かせるように寝室のドアを閉めた。