続・あなたの色に染められて
第14章 言葉 ~番外編~
『森田!』
『おぉ吉野!』
披露宴が始まる前のロビーで本日の準主役の吉野さんが列席者に挨拶をして回っていた。
『悪かったな。』
『いや、こっちの方こそ気を使ってもらって。』
羽織袴でビシッと決めている吉野さんは京介さんほどではないけれど長身のイケメンさん。
数々の浮き名を流してきて本日、やっと一生を添い遂げると覚悟した女性と身を結ぶのである。
『紹介するよ、カミさんの璃子。』
『はじめまして、主人がいつもお世話になっています。』
吉野さんは私の全身を見渡したあとニコリと笑って
『…なるほどな。吉野です。いつもダンナさんをお世話させてもらってます。』
なんて 茶目っ気たっぷりに挨拶をしてくれた。
『森田が拗ねるわけだな。』
『はぃ?』
『吉野、調子に乗るなよ。』
私の頭上で睨みつける京介さんとのクスクス笑う吉野さん。
『なんだよその言い方。おまえがうるせぇから離れの旅館取り直してやったのに。』
『それは…おぅ…サンキューな。』
珍しいと思った。野球のメンバー以外で京介さんがタジタジになるなんて
『璃子さん、今日はゆっくりしていってください。』
『ありがとうございます。』
いつも1人で悩みながら仕事に励んでいた京介さんはきっと吉野さんというライバルがいるから向き合ってこれているだって
『吉野、ヘマすんなよ。』
『おまえじゃねぇからしねぇよ。』
*
『どうした?』
華やかな結婚式を後にして吉野が取ってくれた旅館にタクシーで向かった。
『いい景色ですよ。』
夕食まで時間もあるので大浴場で疲れを癒し 浴衣に半纏と風情のある姿で璃子は山に沈む夕陽を眺めていた。
小さくて柔らかなオーラを纏う璃子に吸い寄せられるように後ろからそっと抱きしめると 廻した手に璃子の華奢な指が触れた。
『静かですね。』
『そうだな。』
二人きりで夕陽を眺めるなんてどのくらいぶりだろう。
『寂しいか?』
『うーん…寂しいけど…』
『けど?』
『…幸せです。』
璃子はイタズラに微笑みながら俺の胸に体重をのせた。
吉野は金屏風の前で添い遂げると決めた女性と幸せそうに微笑んでいた。
『璃子。』
振り向いたおまえの唇に甘いキスを落とし
『帰るまでは俺だけの璃子だからな。』
一生をかけて添い遂げると決めた笑顔の璃子を抱きしめた。