続・あなたの色に染められて
第14章 言葉 ~番外編~
…チャプン
『はぁ…極楽極楽…』
二人で入るにはちょうどいいサイズの露天風呂に1人で身を沈めていた。
…食べ過ぎちゃったかな
夕食を終え、京介さんは今日の報告を聞くために酒蔵に電話をしていると
「先に入ってて。」
顎で露天風呂を差しながら私にそう促した。
どのくらいぶりだろう。
子供が産まれてから初めてかもしれない。
『明るいよなぁ…』
小さな電球が湯船を灯していた。
二人の天使を産んだ私の体は体重は変わらないけど体つきはだいぶ変わっていた。
ここまで明るいところで全裸となると
『…幻滅するかも。』
久しぶりの夜なのに…
お腹や腰回りについてしまったお肉を摘まみながら大きな溜め息をつくと
…ガチャ
『さみぃ~。』
京介さんは何の躊躇いもなく浴室に入ってくると
『温けぇ~』
私の背に身を沈めた。
でも…
以前は恥ずかしがる私をすぐに抱き寄せてくれたのに
…あれ?
長い脚の間で体育座りをする私に手を伸ばしてくれない。
そうだよね、もう私のことなんて…
考えてみれば二人でここに来ることになるまで 愛だの恋だのという感情はいつも私の一方通行で
…調子に乗るな、私
久しぶりの二人だけの夜に勝手に期待しすぎてしまっていたのかもしれない。
小さく溜め息をついてから先に上がると告げようと振り返ると
…ドキンっ
心臓が跳ねた…っていう表現が一番あっていると思う。
『やっとこっち向いたな。』
京介さんはすごく優しく微笑んでいて
『いつまでそっぽ向いてんだよ。』
彼の瞳から視線を外せない私の肩を広い胸に抱き寄せてくれた。
湯船に流れ落ちる掛け流しのお湯と柔らかな風の音だけが響く静寂の中、私の心臓の音だけが大きく音を立てる。
その音を打ち消すように私は口を開いた。
『もう上がろうと思ってたの。』
『なんで?』
久しぶりだった。
低音の声もお湯を掛けるように私の体を撫でるそのマメだらけな指先を感じたのは。
『なんか 私ばっかりみたいで…』
『私ばっかり?』
『…アッ…』
冷たい唇が私の首筋をなぞる。
『言ってごらん。』
その声は私の心のスイッチを押して言葉を紡がせる。
『だって京介さん全然なんですもん。』
『全然?』
ずっと心に閉まっておいたこと
満点の星空の下、今なら言えそうな気がした。