続・あなたの色に染められて
第3章 知らない過去
『…璃子?』
『…。』
『璃子っ。』
『あっ…はいっ!』
茶碗を持ったまま またいつもの癖が出た。
『俺の話聞いてる?』
『…えと。』
最近 色々あって心ここに在らずの私。
『祭りの話。』
『あ~ ゴメンナサイ。』
7月の終わりの土日に行われる夏祭り。
この街のメインストリートを封鎖してたくさんの露天で賑わうその中に うちの酒蔵のブースももちろんあって
『だから 明日仕事終わったら浴衣買いに行こうぜって。』
『浴衣?』
ずっと箸に乗せたままの冷めたご飯をパクリと食べると話の続きが始まった。
『呉服店の若旦那が竜兄の同級で 浴衣買いに来いってうるせぇんだよ。』
酒蔵の揃いの浴衣なら昨日お母さんと倉庫から出して確認したはずだけど…。
『あれ?足りませんでしたっけ?』
京介さんは小さく溜め息をつくと箸をテーブルに置いて
『俺と揃いの浴衣を新調しねぇかって言ってんの。』
『お揃い?』
『やだ?』
イヤなはずないじゃない!
森田の家に嫁いではじめてのお祭り。私は本部に缶詰だけどお揃いの浴衣を着て参加できるなんて
『行く!買います!…え…お揃いの着てくれるんですか?』
『だから イヤなのかって。』
だから イヤなわけないじゃないって。
『璃子の祭りデビューだからな。バシッと決めてお披露目しなきゃいけねぇからな。』
嬉しかった。
最近こうやって心が落ち着かない私に京介さんはさりげなく気を使っていてくれた。
それは食事のあともそう
ソファーに座る彼の肩に身を沈めて心を整える。
たったそれだけのことだけど そのぬくもりが今の私には必要だった。
結婚する前は今より離れていた分 不安だったはずなのに…慣れって怖い。
傍にいればもっと彼を求めてしまう。
『ほら ここにおいで。』
彼の膝の上にゴロンと横になって腰に腕を廻すと
『ウフフ…おなかが鼻に当たる。』
『息止めろって?』
『面白い。』
京介さんが呼吸をする度に私の低い鼻が当たるから鼻を擦り付けてみる。
『どうした?』
『京介さんの匂いだ。』
シャツの上からでも感じる彼の香り。
その香りが私の心に届けばもっと彼を感じたいと心が求める。
気が付けばTシャツを捲り上げていた。
『璃子?』
その香りに吸い込まれるように唇を這わせた。