続・あなたの色に染められて
第4章 夏祭り
酒蔵を贔屓にして下さる方たちに挨拶をしながらメインストリートを進み 酒蔵のブースに着いたのは1日目のお祭りも終わりに差し掛かった頃だった。
まだ列に並ぶお客様は限定の升酒とつまみを手にして立ち飲みができるテントの中へ
『大盛況ですね。』
飲み終えた升はお祭りの記念に持って帰ることができるため 毎年どんなデザインか楽しみにしてくれているお客様が多いらしい。
『璃子ちゃんそのおつまみセット取って。』
『あっ はい!』
この酒蔵の嫁としていつまでも眺めているわけにはいかない。
そろそろ閉店の準備もしていかないと通行止めが解除されたときに迷惑をかけてしまう。
京介さんと私は酒蔵の半纏を羽織り バックヤードで閉店の準備を始めると
『あっ 京介兄ちゃん!』
かき氷を持った和希くんが駆け寄ってきた。
『どこ行ってたの?』
京介さんは屈みこんで彼の目線に合わせて
『奥さんとデート。』
頭をポンと叩く。
和希くんは一瞬私に視線を送ると 今度はニコッと笑って京介さんの顔を見上げて
『明日 母ちゃんと3人で花火見ようよ。』
ごみ袋を結んでいた私の手が止まる。
子供は思うがままに進むから 私のことなんか気にも留めない。
『ねぇ いいでしょ?』
目を見開く京介さんと対照的にキラキラと輝かせる和希くん
『母ちゃんが久しぶりだから京介兄ちゃんと見たい って言ってたんだ。』
先日 彼女に嫉妬した私に京介さんは「沙希とは有り得ない」と笑い飛ばしてくれたけど
『和希それは…。』
『ねぇ いいだろ?3人であの土手で見ようよ。』
京介さんの手をブンブンと振って頼み込むそのさまに 私はふと彼には父親がいないことを思い出した。
花火が上がるのなら今日よりも案内の仕事は格段に忙しくなるはず。
『京介さん 私はいいですから。』
嫁としてしっかり本部の仕事を勤め上げないと…なんて自分に言い聞かせて
『忙しそうだったから明日は最後まで本部にいます。』
まだ3年生だもんね。いくら沙希さんが近くで働くようになったからって 寂しい思いはしているはず
夏休みの思い出に私が和希くんにしてあげられること。それは私が京介さんを信用するれば叶う。
『俺はおまえと…。』
立ち上がり私に手を伸ばす京介さん
『大丈夫ですから。』
私はその手を掴む替わりに微笑んだ。