続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
行きの車の中もそうだった。
荷物を積んでいる隙に和希くんが助手席を陣取ってしまったから私は必然的に後部座席で沙希さんと並んでここまで来ることになった。
無事に到着して好きに使ってくれと案内された部屋は海を真っ正面に見渡せるダブルベットが一つ置いてあるだけの客間。
窓に凭れ掛かって二人で海を眺めていたら やっと彼のぬくもりを感じることができた。
背中を包むように私の胸の前に腕を廻すと
『楽しもうな。』
それはきっと「沙希さんのことなんか気にするな」って意味
髪に優しいキスが落とされると 私を振り向かせて優しく唇を重ねた。
それは“大丈夫”っていうおまじないみたいなキスだったのに…
今 視線の先で京介さんの額に光る汗を拭っているのは私じゃなくて彼の幼馴染み
楽しみにしてたのにな…
***
まただよ…
イケメンっていうのは常にこういうシチュエーションがあるのか?
これじゃ 嫁さんもたまったもんじゃない。
小さな溜め息を一つ吐くと俯いてしまった璃子ちゃん
こんな璃子ちゃんの表情を見せられたら 黙っちゃいられない。
『京介さ~ん!早く焼き係交代しないとタケシが璃子ちゃんに手ぇだしますよ~!』
『タケシ!てめぇ!』
『ちょっ 直也!俺手なんか出さねぇし!』
この状況に目を丸くして俺の顔を見上げる璃子ちゃんに舌を出して胸の前でピースサインすると
俺の意図したことがわかったのかクスリと微笑み
『タケシさんのお肉美味しそう!』
わざとらしく大きな声で反撃する。
そうなれば百戦錬磨の京介さんも黙っちゃいられない。
『璃子!ちょっと待て!!』
自ら焼いた肉を皿に急いで盛り付けると 額の汗を拭っていた沙希さんの手にトングを押し付け
『おまえのはこれ。』
長い手を差し出し紙皿を突き出した。
さっきタケシが持ってきた肉と何一つ変わらない肉だけど
『俺が焼くなんて滅多にないからな。』
得意気に胸を張って鼻を鳴らして 差し出したのは愛情がたっぷりこもった特製カルビにウインナー
『うん!美味しいです。』
ウインナーなんて誰が焼いたって同じ味なのに
『京介さんもどうぞ。あ~ん。』
『ん。我ながら上出来だ。』
まったく…いくら気の知れた仲間たちだからって
『京介さんイチャイチャ禁止ですよ。』
『知るかバーカ。』