続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
『もう 離してください!』
『だから おまえの席はここだって言ってるだろ?』
少し陽が傾きはじめた夕刻前 テラス席では嫁さんたちが育児相談会を開いている真っ最中に 何故だか璃子ちゃんだけが京介さんに捕まっていた。
早くみんなの席に戻ろうと体を捩るけど 京介さんはそんなことお構い無しに愛する人を膝の上に抱え込んで
『長谷川さん聞いてくださいよ。コイツ 同僚の風間っていうヤツとしょっちゅうイチャイチャしてんすよ?』
『してません!』
さっきまで璃子ちゃんがヤキモチ妬いてたのに形勢逆転、今度は璃子ちゃんが攻められて
『ほらまたそうやって。コイツいつまでたってもオレには敬語使うくせに その風間ってヤツにはタメ口叩いちゃって。』
『だから それは同じ年だからです。』
夫婦喧嘩と言うかダンナのくだらない嫉妬と言うか
『同じ年?そんなの知らねぇよ。っていうか いつになったらその敬語やめるわけ?』
『わかりました!今すぐに辞めますからこの手を離してください。』
爽やかな夏の午後だった。
いつものメンバーと旨い酒呑んで 他愛もない話をして 日頃溜め込んだストレスを発散して
『きょうすけ!りこちゃんいじめるなっていったろ!』
小さな体で璃子ちゃんを助け出そうとするのは さっきまでプールではしゃいでたケンタ
大好きな璃子ちゃんを助け出すためにびしょ濡れで勇敢に大男に立ち向かう。
『早く助けて~。』
『女子にはやさしくしなきゃだめなんだぞ!』
お腹に巻かれた腕を引き離そうと歯を食い縛るケンタだけど 璃子ちゃんを愛する京介さんの力には到底敵わない。
『はなしてやれよ!』
『うるせぇバーカ。』
『京介さんいい加減に離してください。』
お互い睨み合い いつもの対決が始まろうとしたそのとき
『離れたいなら離婚すればいいじゃん。』
璃子ちゃんをまっすぐに見据えながら和希くんが呟いた。
…え。
一斉に彼に視線がそそがれると和希くんは浮き輪を持ってプールに飛び込んだ。
京介さんは俯く璃子ちゃんを引き寄せるとわざとらしく大きな声で
『ケンタっ 璃子は俺のだって言ってるだろ?』
『なんだよ!えらそうに。』
不貞腐れるケンタの頭をポンと叩いて
『いいから ケンタはプールで泳いでこい。和希が待ってるぞ。』
なんとかその場の雰囲気を和ませた。