続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
『…ごめんなさい。』
璃子ちゃんは座ろうとしていた椅子に手を掛けて瞳を伏せていた。
…なんなの?この沙希って人
朝からパワー全開だった子供たちがグズり始めたこの時間
璃子ちゃんは気を利かせて一人でキッチンに立ってくれたのに
『璃子ちゃん座って?』
そう声を掛けたのはやっと眠りに落ちたチーちゃんを胸に抱く幸乃さん
『でも…。』
『いいから座れ。』
京介さんも背中をポンポンと叩き椅子に座るように促した。
沙希さんは文句を言ったパスタをつつきながらテーブルに並べられた料理を見渡すと
『カプレーゼもカルパッチョもお洒落なんだけどね…。これっておつまみじゃない?子供の夜ご飯としてはどうかなぁ。』
頬杖をついてトロンとした瞳でワイングラスを回す姿を見れば 酒に呑まれていることは容易に判断できた。
酔っぱらいの戯言だと放っておくつもりだったけど 何故だか標的にされてしまった俯く璃子ちゃんを見てるとそうもいかない。
『あれ?沙希さん知りませんでした?璃子ちゃんの手料理ってすげぇうまいんですよ?』
『そのパスタも本格的でしょ?私大好き。』
この嫌な雰囲気を消し去るように一斉に璃子ちゃんを庇い始めたが
さすが一匹狼の萌ちゃんが見込んだ人だけあってそんなに簡単にはへこたれなかった。
『美味しいかどうかは別でしょ?まずは子供に食べさせなきゃ。』
奥のソファーではしゃぐ子供たちをグラス越しに眺め 俺たちの方を向いて満面の笑みをこぼすと
『まぁ 子供がいないからわからないか。』
…はぁ?
スゴく棘のある言葉を言い放った。
ゴンっ!
それまで大人しく椅子に凭れ 目を閉じていた京介さんがその言葉を聞くと
『沙希、おまえいい加減にしろよ?』
飲んでいた缶ビールを勢いよくテーブルに叩きつけ
『さっきから呑んだくれて 何一つ手伝いもしなかったくせに 偉そうなこと言ってんじゃねぇよ。』
京介さんは沙希さんが持っているワイングラスを奪うと
『京介さん…。』
京介さんの腕を掴んで不安そうに見つめる璃子ちゃんに優しく微笑んで
『俺がコイツに作るように頼んだんだ。気に入らねぇなら手ぇつけんな。テメェの子の分ぐらいテメェで作れ。』
京介さんは奪い取ったワイングラスを乱暴に置くと沙希さんを睨み付けた。
なんだよなんだよ…せっかくの旅行なのに。