続・あなたの色に染められて
第5章 サマーバカンス
ヤバイ…京介さんが本気で怒っている。
愛想が元々良いわけじゃないけど キレるなんて滅多にないこと
うっすらと笑みを浮かべ 怒鳴るわけでもなく淡々と話しだす…怒りが頂点に達している証拠だった。
俺が最後にキレた京介さんを見たのは たしか萌がしつこく「抱いてくれ」と 迫ったときだった。
あのときも同じように璃子ちゃんのことを悪く言った萌にピシャリとモノを言ったっけ
『わぁ怖い…そんなに目くじら立てちゃって~。』
沙希さんはヘナヘナと体をくねらせながら 京介さんが取り上げたグラスを手元に戻すと
『京介は結婚して変わったよね~なんか見損なっちゃった。』
『はぁ?』
『京介、沙希ちゃんは酔ってるんだから相手にするな。』
身を乗り出す京介さんを長谷川さんがなだめてくれると
『なによ…一人で幸せになっちゃってさ…ズルいよ。』
喧嘩を売ったかと思ったら今度は泣き落とし
…ホント 面倒くさい
怒りが治まらない京介さんは髪をかきあげると
『言いたいことがあるならハッキリ言えよ。』
そう言い放つと 彼女は今にも溢れそうなほどの涙を溜めて
『子供の食事も作れないような子と結婚するなんて…。』
まただよ…。
その言葉に 璃子ちゃんはまた俯き小さな溜め息を漏らすと
『和希くーん!』
救世主は現れるもので
『このオムライスすげぇうまいぜ!』
璃子ちゃんを愛する男はここにもいるわけで
一斉に声の主に視線を向けると ローテーブルでオムライスを頬張るケンタが トイレから戻ってきた和希くんを手招きして
『ねぇ早く!もう冷たくなり始めてるよ!』
さすが京介さんのお嫁さんだ
俺たちの知らぬ間に つまみよりも先に出されてたんだと思う
『本当だ うまい!』
二人揃ってオムライスを頬張る姿を見ていると心がスッと晴れた気がした。
『覚えててくれたんだね アイツがオムライス好きなの。』
長谷川さんが目を細めると
『ママ!チーの分も和希くんと半分こして食べて良い?』
『いいわよ。』
テーブルの雰囲気がやっと柔らかな色に染まり出すと 京介さんは得意気に璃子ちゃんの肩に腕を廻して
『ケンタ!それ旨いだろ?』
『チョーうまい!』
『俺にも食わせろ。』
『ヤダ!』
この二人のやり取りにドッと笑い声が響くと 璃子ちゃんもやっと笑みをこぼした。